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2015年11月22日07:42

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在宅介護

 医療費などの削減のために、老人や病人は病院や施設ではなくて家庭で面倒を見ろ、と厚生労働省は言っています。しかし、徘徊をする認知症の老人が家から抜け出して踏み切りで電車にはねられると、JRから賠償請求が介護者に来ます。少なくとも愛知県の事象では、まだ判決は確定していませんが、地裁と高裁ではJRの請求が認められました。つまり介護者は、24時間献身的に完璧な介護をすることが社会から求められています。
 ところがアベノミクス2ndステージでは「介護離職ゼロ」だそうです。家族の人数が少ない現在の日本で、仕事を辞めないで誰がどうやって24時間介護をできます? 介護保険を使う? 使えば使うほどお金がかかりますし、他人が自宅に入ることを嫌う老人はとっても多いんですよ。さらに「お金がかかる」は財務省からは明確に否定されています。
 日本政府と日本社会は、介護をする人たちに対して「面倒は見ろ、仕事は辞めるな、金をかけて日本社会に迷惑をかけるな」と要求しているように見えます。一体どうしろと?
 マリー・アントワネットの「パンが食べられないのなら、お菓子を食べれば良いのに」を私は思い出しています。「24時間介護が自分でできないのなら、誰かに無料で助けてもらえば良いのに」と言うのが、政府と日本社会の言い分かな、と。

【ただいま読書中】『月にハミング』マイケル・モーパーゴ 著、 杉田七重 訳、 小学館、2015年、1600円(税別)
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 サバ釣りに出かけたジムとアルフィの父と息子は、誰もいないはずの小さな無人島でたった一人で泣いている幼い少女を発見します。飢餓と脱水と感染症で瀕死の状態。言えるのは「ルーシー」の一言だけ。
 スリリングで魅力的なオープニングです。
 そこでやっと“今”がいつかが明かされます。ドイツにカイザーがいて「1年前にフランスとベルギーで戦争が起きた」ということは、第一次世界大戦が始まってすぐ。そして、島民がドイツ人を敵視していることからここは連合側、というか「セント・メアリーズ島」とか「セント・へレンズ島」という地名から、英語が通用する場所であることは明らかでした。
 戦争の話題と島民の戦死や負傷で暗くなっていた島は、「ルーシー・ロスト(迷子のルーシー)」に飛びつきます。明るい話題、とは言えませんが、少なくとも気晴らしにはなりますから。彼女の由来について様々な説が立てられますが、一番奇想天外なのは「人魚説」でした。
 ここで突然、ニューヨークに住む少女の手記が登場します。学校の勉強、特に文字を読んだり書いたりするのが大の苦手だけど、ピアノを弾かせたらピカイチのメリーです。しかしパパは志願して戦場へ。メリーはパパとの約束で、「二人のテーマソング」モーツァルトの「アンダンテ・グラツィオーソ」を月に向かってハミングします。パパは負傷してイギリスで療養。メリーは学校をやめママとイギリスに向かいます。豪華な客船、当時最速の船で。
 ルーシーは自分の殻に閉じこもっていました。しかし、「音楽が効くはずだ」という信念を持つ医者が持ち込んだ蓄音機が、本当に効きます。一歩ずつ、一歩ずつ、ルーシー・ロストはアルフィ一家に“近づいて”きます。まるで野生動物が餌付けをされて少しずつ人に慣れる過程のように。
 アルフィの目からは“過小評価”されていますが、母親のメアリーが非常に重要な役回りを果たしています。自分の双子の兄ビリーが心を病んで社会からドロップアウトをしたとき、なりふり構わず非人道的な精神病院から救出し献身的に面倒を見て回復の道筋に乗せています。そして、ルーシーに出会ったときもまた同様に「自分が救う」と決心したのです。一家だけではなくて、島全体がメアリーによって影響を受けています。
 二人で手をつないで、ぐっとこちらに迫ってくるような満月に向かってハミングをする、奇跡のようなため息が出る美しいシーンがあります。ここを読むだけで、本書を読む“元”は取れます。
 そして「奇跡のような」ではなくて「奇跡そのもの」がじわじわと動き始めます。ルーシーが回復し始めたのです。相変わらず口はきけず、自分が何者かも思い出せませんが、少なくとも生きる意欲を取り戻したのです。
 しかし、ルーシーがドイツ人かもしれない、という妄想が島を支配し、人々は憎悪をむき出しにします。言い返せない相手には、いくらでも強いことが言えるのです。
 ここでやっと真相が明らかになります。ルーシーが乗っていた船は、潜水艦に魚雷攻撃を受け、沈没したのです。海の藻屑と消えるはずだった彼女がどうして無人島で発見されたのか、驚くような話がそこから展開します。「生きなさい。子供は生きなければならないの」と言ったおばあさん。海に浮くピアノ。そして、規則を破る艦長。ドイツの毛布。
 「物語」の凄みを感じさせる作品です。戦争とそれが人々に与える影響について、じっくり考えることができます。BGMにはぜひ「アンダンテ・グラツィオーソ」(モーツァルト)をどうぞ。


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