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2015年10月20日06:48

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鳥人

 人間に鳥の羽をつけてそれで本当に飛ぶことができる人は「鳥人」ではなくて「超人」と呼ばれるのです。

【ただいま読書中】『空飛ぶ機械に賭けた男たち ──写真で見る航空の歴史』アレン・アンドルーズ 著、 河野健一 訳、 草思社、1979年
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 古代から人は空を飛ぶ夢を見ていました。古代中国の神話時代の皇帝舜は少年時代に鳥の翼をまとって山上の牢獄から脱出し、成人後には両手に握った丸い籐の冠で高い塔から舞い降りたそうです。人工の翼を持って塔から飛び降りて死んだ人は数知れません。890年アッバサ・ベン・フィルナ(コルドバ)、1130年エルマー(イングランド)、1490年ジョバンニ・バティスタ・ダンディ(イタリア)……1507年ジョバンニ・ダミアンは羽毛で作った人工の雲に乗って城の胸壁から飛び降りましたが、肥だめに“軟着陸”したおかげで足の骨折だけで済みました。ダンディやダミアンと同時代のレオナルド・ダ・ビンチは、羽ばたき機械を設計しました。ダ・ビンチの弟子アストロ・ペレトラは師匠が作った翼でこっそり飛行実験をして木に衝突したそうです。
 鳥を手本に空を飛ぼうとした人たちを本書では「鳥人」と表現します。しかし、彼らの誰も成功はしませんでした。ならば鳥そのものを利用して空を飛ぶのは? 駕籠に多数の鳥を縛り付けるアイデアです。でもこれも成功した人はいませんでした。
 別の方法もあります。魔女の箒です。中部アフリカの魔女は丸い籠を羽ばたかせて飛ぶそうですから「箒」が万能の飛行ツールであったわけではなさそうですが。
 論理によって「空飛ぶ機械」には「空気より軽い機械」と「空気より重いものを駆動する動力装置」の二種類があり得ることがわかりました。1670年フランシスコ・ド・ラーナは「真空にした銅製の球」で浮力を得るアイデアを発表します。『ふわふわの泉』ですね。1766年ヘンリー・キャベンディッシュが水素の分離に成功。「水素気球」のアイデアが浮上します。もっともモンゴルフィエ兄弟が成功したのは「水素気球」ではなくて「熱気球」でしたが(「熱気」は当初「水素に対抗できる新ガス」扱いされました)。
 1796年にヘリコプターが登場します。実機ではなくて玩具レベルのものでしたが、それでもちゃんと飛行しました。作ったのはケイリー卿で動力源は弓バネでした。1842年にはW・H・フィリップスが回転翼の先端から水蒸気を吹き出して作動する蒸気ジェット式ヘリコプターの模型を製作、飛行実験に成功します。
 ケイリー卿は1799年(25歳)のとき、複葉機のスケッチを残しています。これは後世の航空機の基本原理をすべて包含しているデザインでした。特に(羽ばたくのではない)固定翼は画期的なアイデアでした。空気力学が導入されていたのです。しかし動力が問題です。「空飛ぶ蒸気車」のコンセプトはありましたが、蒸気機関は重すぎます。そもそも飛行中にどうやって石炭をくべます? そこで無動力の固定翼機、つまりグライダーの研究が盛んになります。
 さて、このあたりから「写真」が豊富に登場するようになります。初期の“航空機”は、良く言えば優美、悪く言えば無駄がやたらと多い設計ですが、それが写真によって一目瞭然です。そこに突然自動車の写真が登場します。もちろん「ガソリンエンジン」車です。ライト兄弟は内燃機関に将来性を見いだしますが、既製品では力不足だったため、自分たちで新しいエンジンを製作してしまいました。8馬力エンジンを作るつもりが、できたのは12馬力エンジンでしたが。
 しかし、複葉機どころか三葉機となると、その恰好から私には「連凧」が想起されてなりません。まあ、原理はほぼ同じなのですが。
 そして単葉機が登場し、英仏海峡の横断に成功。飛行機はどんどん進歩していきます。しかし、ヘリコプターは開発が止まっていました。シコルスキーが浮遊試験に成功したのは、やっと1939年になってからです。
 ジェット機のアイデアが登場したのは1783年。気球の推進力として気球から直接ガスを噴出させるアイデアが弄ばれました。1908年には向きを変えることができるラムジェットによる垂直離着陸機のアイデアが登場します。複葉機の時代なんですけどね。第一次世界大戦中、ガス・タービンを動力源とするプロペラ機とジェット機が考えられました。第二次世界大戦中、イギリスとドイツではそれぞれジェット戦闘機が製作されています。
 最初の旅客機は、1913年に初飛行をしたロシアの「ボリショイ」。8人乗りの複葉機です。このシリーズは大成功し、第一次世界大戦では爆撃機として活躍したそうです。1919年頃の「カプローニCa60」は、乗客を100人乗せることができる巨大な三葉飛行艇です。写真を見ると、その異様な迫力には圧迫感さえ感じます。ハワード・ヒューズが設計製作した世界最大の飛行艇「天翔る白象」も当然登場します。これまたとんでもない圧迫感のある写真です。
 そして本書は、コンコルドと人力飛行機の写真で締めくくられます。なかなか面白い取り合わせです。「鳥人」で始まり「鳥人」に回帰するとは、しゃれた構成でした。


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