mixiユーザー(id:235184)

2015年10月02日07:16

430 view

止まった球

 ゴルフが難しいのは打つ球が止まっているからだ、という話を聞いたことがあります。ならば動く球を打つテニスや野球が簡単か、と言えばそうでもありませんが。
 そういえば、野球にはティーバッティングといって「止まった球」を打つ練習がありました。これは打撃フォームを固めるための練習だったはずですが、あまり飛距離はでません。すると、ホームランを打たれないためにはピッチャーは「ハエがとまるくらい」の超スローボールを投げると、ホームランだけは喰らわずにすむかもしれません。

【ただいま読書中】『デリー勤務を命ず ──辞令が出たら読むビジネス版インドの歩き方』繁田奈歩 著、 日経BPコンサルティング、2015年、900円(税別)
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4864430705/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&camp=767&creative=3999&creativeASIN=4864430705&link_code=as3&tag=m0kada-22
 中国からインドに活動の拠点を移動した著者が、「突然インド勤務を命じられた」日本人のためにインドのビジネス現場をガイドしようと書いた本です。
 インドを一言で表現すると「混沌」だそうです。ちっとも一言で表現できていない気もしますが。貧富の格差は激しく、さらにカースト制度という(日本人には)わかりにくい制度がインドの“混沌”に拍車をかけます。カースト制度は、日本では「4つの階層(ヴァルナ)」ですが、インドでは数千の「ジャーティ」(主に職業を中核とした集団)が制度の軸となります。
 「インド市場や商習慣の特殊性・閉鎖性」によって日本企業がインドに参入しにくいことをこぼす日本人は多いそうです。で、著者はこう問います。日本市場に特殊性や閉鎖性はないと? 日本は外資企業が活動しやすい環境デスカ? さらに、欧米に対しては卑下し、アジアに対しては「上から目線」の態度はないか?と。
 住環境は良くありません。断熱材は期待しないで下さい。アパートの最上階は、壁と天井がこんがり焼けてオーブン状態となります。使用人の雇用も問題です。インドでは富裕層でなくてもサーバントを雇います。しかも各人が“専門職”です(コックは料理しかしない、といったイギリスの伝統が持ち込まれたのでしょうか)。問題は、多くの日本人が使用人に馴染みがないこと。なかなか“良い人”を見つけるのは大変です。もっともその生活に慣れてしまうと、日本に帰りたくなくなるくらい快適だそうです。休日の過ごし方も工夫が必要です。娯楽が少なく連休もあまりないので、上手く休日を過ごさないと燃え尽きてしまうこともあるそうです。
 「インドは恐い国」と書かれた本はたくさん出ています。ただ、著者が調べるとそのほとんどは、バックパッカーが書いた本。ビジネス現場はそれとはちょっと違う世界だそうです。もちろん衛生観念が希薄だったり商習慣が食い違ったりはありますが、インドは多層社会で、バックパッカーの世界がすべて、ではない、と著者は力説しています。
 インドの人口は日本の10倍。したがって「できる人」は日本の10倍います。「できない人」もおそらく日本の10倍。インドの「できる人」の多くは多言語を操ります。大英帝国ですから英語ができるのは当たり前、と思ったら、そもそもインドは多言語の国でした。さらに社会は多様・多層です。そこで子供が育ったら、日本人とは少し違った感覚で社会を捉える人が生まれそうです。そして、多様・多層だからでしょう、インド人ははっきりものを言います。沈黙に価値を認めません。だから日本人との間に摩擦が生じます。ただ、ここで私も「会議に参加して一言も口をきかない人は、何が目的でそこにいるんだろう?」と思います。しゃべらない人は会議にいなくても良いのではないか、と。ただ、インド人は、中・長期の計画が苦手な傾向があります。そこを日本人が補うことで良い関係が生まれるのではないか、と著者は考えています。
 ただ、多様・多層というだけでは話が進まないので、「インド」を理解するためのキーワードを著者は提出しています。たとえば「ジュガール」は、とにかくその場にあるもので創意工夫をして解決をする、という態度です。ただ、その場しのぎになるのが難点です。「時間の概念」は、ルーズだったりせっかちだったりで、きちんと時間を守る、という態度がありません。計画や段取りが苦手です。順番待ちが嫌いです。「ノー」とあまり言いません。謝罪はしません。思ったことはそのまま口に出し、議論が大好きです。押しが強いのに、逆境ではメンタルの弱さを露呈します。人的ネットワークが社会の中では非常に重要で、そのせいか、ゴマすりが上手です。前向きで楽観的です。いやあ「異文化人」そのものですね。ただ、日本人にとってインド人が「異文化」なら、インド人から見た日本人もまた「異文化」です。そのことを忘れなければ、上手く付き合っていけるはず、と著者は楽観的です。
 インド市場は非常に魅力的ですが、それは単純に「12億の人口」があるからではありません。そもそも多種多様な「12億」をまとめてターゲットにするのは現時点では不可能です。まずインドについて情報を収集し、自分の強みと弱みをきちんと認識し、どの地域のどの階層をターゲットにするのかを確定した上でインド進出をしたら、成功する確率は上がる、と著者は言っていますが、それはインドに限ったことではないですよね。というか、そういった手続きを踏まずに「自社製品は良いから売れるはずだ」でインドにやって来る会社がけっこうあるのだそうです。それでは「インドは難しい」「よくわからん」になるのは当然でしょうね。最初から「インド」が眼中になかったわけですから。


0 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2015年10月>
    123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031