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2015年08月23日08:30

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静物画の果物

 静物画での重要な題材の一つが果物です。これって「時の流れ」の表現でしょうか? 今目の前にある「一つの蜜柑」も、かつては木に生っていて将来は食べられるか腐るかして原形をとどめなくなるという“時の流れ”の具現なのですから。

【ただいま読書中】『柑橘類と文明』ヘレナ・アトレー 著、 三木直子 訳、 築地書館、2015年、2700円(税別)
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4806714933/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&camp=767&creative=3999&creativeASIN=4806714933&link_code=as3&tag=m0kada-22
 イタリア料理に最初に定着した柑橘類はダイダイでした。この木には耐寒性があり、様々な柑橘類の接ぎ木の台としても重宝されました。16〜17世紀の料理のレシピにも「調味料」「皿の飾り」としてダイダイが大活躍しています。砂糖漬けの皮は薬としても用いられました。本当に甘い「スイートオレンジ」が中国からやって来たのは17世紀半ば。その甘さは衝撃的で「オレンジのふりをしたマスカット」と言う人もいたそうです。
 ミカン属はもともとは「マンダリン(中国原産)」「ブンタン(マレーシア、マレー諸島)」「シトロン(ヒマラヤ)」だけですが、他家受粉を平気で行って交配種をどんどん作ります。オレンジとダイダイはマンダリンとブンタンの、グレープフルーツはブンタンとオレンジ、レモンはシトロンとダイダイの交配種です。さらに突然変異も生じます。そういえば甘夏は夏みかんの枝変わり(突然変異)でしたね。メディチ家には柑橘類の一大コレクションがあり、それは今でもいくらか伝えられているそうです。
 レモンは、壊血病予防に大きな役割を果たしましたが、シチリア島ではマフィアを育てるのにも大きな役割を果たしたそうです。マフィアの御先祖は、レモンの大農園を所有する人たちだったのだそうです。
 著者はあちこちで様々な柑橘類を食べます。生であるいは調理されたものを。そして、その味(甘み、酸味、苦み)のバランスについて一つ一つ感動を覚えます。そういえばマーマレードも、この味のバランスを楽しむものでしたね。それと舌触りと。さらに果皮(精油)の独特の香りも柑橘類の魅力を構成する必須の要素です。
 本書にはイブレアのオレンジ合戦も登場します。著者は当然のように参加しますが、節分で豆をぶつけるのとは違っていて、イタリアの文化と(ナポレオン時代に遡る)歴史と宗教(謝肉祭の行事)がこの“合戦”の背景にしっかりと存在しています。この合戦の模様をテレビで見たことがありますが、本書で伝えられるのは匂いです。オレンジと馬糞が交じり合った匂いが街に充満しているのだそうです。なにしろ馬に引かれる山車が38台、3日間動き続け、400トンのオレンジが潰されるのですから。
 香水にも柑橘類は重要な役割を果たしています。ベルガモットの精油をベースに1708年に生まれたのが「オー・デ・コロン」です。“副産物”もあります。果皮から精油を抽出する労働者はよく刃物で手を怪我しますがそれが決して敗血症にならずすぐに傷が治ることから、ベルガモットの精油に殺菌作用と治癒作用があることがわかったのです。
 本書は、一言でまとめるのが難しい本です。柑橘類の魅力が一言では言い表せないのと同じように、本書の魅力は実際に自分で“味わって”みるのが一番なのかもしれません


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