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2015年07月16日06:20

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手をあげる

 殴ることを「手をあげる」と言いますが、手をあげるだけで勢いよく振り下ろさなければ、それほど問題ないのではないです?

【ただいま読書中】『シドモア日本紀行 ──明治の人力車ツアー』エリザ・R・シドモア 著、 外崎克久 訳、 講談社学術文庫、2002年、1350円(税別)
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4061595377/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&camp=767&creative=3999&creativeASIN=4061595377&link_code=as3&tag=m0kada-22
 著者は人文地理学者です(アメリカ地理学会で最初の女性理事だそうです)。本書の導入部は、アメリカを出発して日本の沿岸を眺めて横浜に上陸する、という感じの、まるで映画のオープニングに使えそうな風景描写となっています。
 さて、日本での生活ですが……人力車では、車夫は背が低い方が乗り心地が良いそうです。「1円」は、メキシコ銀貨で1ドル、合衆国金貨で50セント。子供が子守をしている(自分より小さい子をおんぶしている)ことに著者は目を丸くします。そして、子供をおんぶできないくらい小さい子はその練習のために人形をおんぶしているのだそうです。う〜ん、これは本当? 遊びだと私は思っていたのですが。大丸の暖簾をくぐると「歓迎賛歌」だそうですが、これは店員がいっせいに言う「いらっしゃいませ〜」のことでしょうね。
 横浜、鎌倉、東京とまるで観光案内のように記録は続きます。東京で特に目立つのは軍人さん。先日東京が日本では特別な軍都であったことを読みましたが、それは確かだったようです。
 そして、季節ごとに東京を彩るのは、花。梅、花菖蒲、藤、牡丹、ツツジ、蓮、菊など、著者は花を愛でます。特に愛している様子なのが、桜。上野、向島の桜の情景は、まるで言葉で描かれた絵のようです。
 著者は、文化に関して偏狭な態度を取りません。日本の文化に関してとことん肯定的です。よほど当時の日本が気に入ったのでしょうね。
 日光には、明治23年に鉄道が開通しましたが、著者らは宇都宮から杉並木を40kmの人力車ツアーです。あの街道は自転車で走ったことがありますが、とても美しくて楽しい道なんですよね。なお、鉄道が宇都宮まで敷設される前の外国人旅行者は、横浜から人力車ツアーをしたそうです。車夫もしんどいけれど、お客も大変だったでしょう。舗装道路ではないですよね。この時期、夏になると東京の公使館は半数が日光に避暑したそうです(本書には登場しませんが、残りの半分は軽井沢に行っていたのかもしれません)。
 富士登山は駕籠で始まります。馬返(海抜1250m)からは徒歩です。しかし、神社の神官が「巡礼杖は1本10銭です」と英語で言うとは、明治の富士はすでに国際化されていたんですね。そして一行は、8合目の山小屋に猛烈な嵐のため3日間閉じ込められます。やっと頂上に到達して、転がり落ちるように雨の中を下山。やっと馬返に戻ったら、お日様が顔を出します。残念でした。ただ著者は富士山が「山」ではなくて「文化」であることを見逃しません。「日本人はもう一つの富士を創造してきた」と、今の日本人がもう忘れていることを指摘してくれています。
 東海道を西に。これも人力車ツアーです。まるで『膝栗毛』を意識しているかのようにお風呂での滑稽譚などを取り混ぜ、一行はゆるゆると西に向かいます。名古屋、琵琶湖、京都…… 京都では様々な寺社仏閣を訪れますが、うらやましいのは大文字焼きです。街の中心にそびえ立つ2階建ての校舎から大文字のすべてを見ることができるのです。当時の京都は「低い都市」だったんですね。だけどこれだとどこからでも周囲を見ることができるんですよね。
 絹織物に著者は夢中です。刺繍工芸や骨董品の美しさも褒め称えます。笑っちゃうのは、宿屋でお給仕に使われた古いお盆があまりに見事なので譲ってくれと言ったら、宿の女主人が「こんな古びたものは外国のお客さまに失礼」とモダンな新しいものを渡してくれたこと、というエピソードです。
 瀬戸内海旅行は6回も行っているそうです。まだ山陽本線は全線開通していないでしょうし山陽道も未整備でしょうから、これは人力車ではなくて船でしょうね。
 なお、著者は「ポトマック河畔の桜」を実現させるために尽力した人だそうです。こういった「遠来の客」の心を即座にわしづかみにする魅力(日本らしさ)が今の日本にもたっぷり残っていたら、これからの世界の中での日本は安心なんですけどね。


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