mixiユーザー(id:235184)

2015年05月24日07:22

138 view

不完全主義の主張

 人為に完全はあり得ません。すると「完全主義の人」は「完全な物を産みだした人」ではなくて「完全なものを生み出したいという願望が非常に強い人」のことになりそうです。
 ところで完全主義の人は「ある1点」にはこだわりを見せますが「それ以外」にはまったくの無頓着であることが多いように私には見えます。つまり、「一つの分野では99点だが、あとはせいぜい10点」。これだとそこそこの人、つまり「たとえば二つの分野で70点、あとは30点」の方が「人間としてのトータルの得点」は高いことになりません?

【ただいま読書中】『拷問者の影 ──新しい太陽の書1』ジーン・ウルフ 著、 岡部宏之 訳、 早川書房(ハヤカワ文庫SF689)、1986年(2005年4刷)、840円(税別)
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4150116601/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&camp=767&creative=3999&creativeASIN=4150116601&link_code=as3&tag=m0kada-22
 時は太陽が死のうとしている未来、場所は惑星ウールス。語り手は〈共和国〉の拷問者組合に属していたセヴェリアン。
 セヴェリアンは饒舌ですが、「読者が何を知っていて何を知らないのか」を知らないようで、「自分の常識」については自明のこととして最小限のことしか説明してくれません。ともかくこの〈共和国〉が「独裁者」によって統治されていることや、かつてのドイツで死刑執行人が拷問も担当していたのとそっくりに、この惑星の「拷問者」が徒弟制度で育てられ拷問と処刑を担当していることが読者に知らされます。そうそう、斬首が斧ではなくて剣で行われる点も、ウールスとドイツで共通です。
 徒弟から職人に昇進したセヴェリアンですが、徒弟時代に反逆者ヴォルダスと一瞬の関係を持ち、さらに職人になる時にヴォルダスの仲間と疑われた高貴な女性の担当となってしまい、感情移入のあまりその女性の自殺を幇助してしまいます。処刑を覚悟するセヴェリアンですが、命じられたのは組合からの追放でした。長老は“餞別”として名剣「テルミヌス・エスト」を与え、辺境の地への紹介状をくれます。とぼとぼと旅立つセヴェリアンですが、なぜか「花による決闘」を申し込まれ、その花を入手するために案内された魔力に満ちた植物園で奇妙な出会いが。
 本シリーズの第二巻は『調停者の鉤爪』というタイトルですが、本書ですでにそれへの言及が何度か行われます。ということは、セヴェリアンは決闘では死なないのだな、とはわかるのですが、それにしてもスリリングな「花の決闘」です。ひたすら淡々とした口調で描写されているのですが、ちょっと恐すぎる。
 そして本書の最後で私は笑ってしまいます。本書はジーン・ウルフによる“翻訳書”なのだそうです。まだ存在しない言語で書かれた原本を20世紀の言葉に翻訳した、とジーン・ウルフは主張しています。まったく新しい世界を丸々創造してくれるだけでも大したものなのに、そこにさらにいろんな捻りを加えてくれるのですから、本書が世界幻想文学大賞を受賞したのも当然だとは思います。もっと早く読めば良かった。


1 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2015年05月>
     12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
31