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2015年03月25日06:59

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捕鯨反対派の先祖

 鯨を食べるとは日本人は野蛮だ、と欧米人に主張されると私は反射的に「北大西洋と北太平洋の鯨を全滅させたのは自分たちのくせに」と言いたくなります。それも食べるためではなくて、油を絞るためとペチコートの骨のため、という、日本人から見たら「もったいない用途」のために。

【ただいま読書中】『盤上の夜』宮内悠介 著、 東京創元社、2012年、1600円(税別)
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4488747019/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&camp=767&creative=3999&creativeASIN=4488747019&link_code=as3&tag=m0kada-22
目次:盤上の夜、人間の王、清められた卓、象を飛ばした王子、千年の虚空、原爆の局

 奇妙なタイトルが並んだ短編集ですが、「ボードゲーム」という共通のキーワードで貫かれている、と言えば納得できる人も多いでしょう。
 「盤上の夜」……中国で四肢を失い生き残るために囲碁を覚えた少女由宇に関するルポルタージュの体裁を採った短編です。由宇は囲碁に関して異才を発揮し、あっという間に日本の囲碁界のトップクラスとなります。彼女は不思議なつぶやきを多く残しますが、それは、失われた四肢の代わりに「盤」が彼女の肉体として脳に直接接続されているように思われるものばかりでした。盤面そのものが「触覚」として認知できていたのです。しかし、対局のためにはその感覚を「ことば」に翻訳しなければなりません。それは由宇に大きな負担を強い……
 「人間の王」は、やはりルポですが、扱われるのは「40年間無敗だったチェッカーのチャンピオン」です。しかし彼はコンピュータープログラムに敗れ、しかもコンピューターによって「チェッカーの完全解(両者が最善を尽くせば引き分けになる)」を突きつけられてしまいます。さて、「無敗のチャンピオン」は一体誰と戦っていたのか、「そのチャンピオンを破ったプログラム」は誰と戦っていたのか? コンピューターによって「完全解」を出されてしまったゲームは消滅するしかないのか? なかなか奇妙な重さを持った問いが読者に突きつけられます。
 「清められた卓」は麻雀。囲碁や将棋のプロは勝ち続けた人たちだが、麻雀のプロは負け続けその負けから這い上がってきた、と言われると思わず納得したくなります。
 「象を飛ばした王子」ではチャトランガ。これは古いインドのボードゲームですが、西に行ってチェスに、東に行って将棋になったものです。なぜ「象」かと言えば、チャトランガには「象」という駒があるからで、これが中国に伝わって「中国将棋(シャンチー、象棋)」になりましたがここにも「象」はしっかり存在しています。それが日本に伝わるときに象は海が渡れなかったようで日本将棋に現在「象」はいません。ちなみにシャンチーの盤面にも中央に大河が流れているのですが、象はその河は渡れません。
 そして話はまた将棋と囲碁に戻ります。「盤上の夜」や「清められた卓」の登場人物が再登場しますが、そこに重ねられるのが「第三期本因坊戦」です。これは昭和20年に開催されたのですが、東京は空襲で破壊されたため、第一局(7月23日〜25日)は広島市内で、そして第二局(8月4〜6日)は広島市中心部から10kmほど郊外の五日市で打たれました。3日目、106手が打たれたとき、対局場を衝撃波が襲います。原爆です。しかし対局者二人は散らばった碁石を集め、すぐに対局を再開したのだそうです。もっとも本書のルポライターは、東京から広島に、ではなくて太平洋を渡ってしまうのですが。
 不思議な小説です。第1回創元SF短編賞の特別賞(山田正紀賞)を贈られていますが、別に「SF」という“枠”で扱う必要はない、ノン・ジャンルの「面白い小説」というくくりで良いのではないかな。


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