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2015年03月19日07:23

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文民統制

 本来は「軍が暴走するのを、政治家が抑制する」ためのシステムですが、イラク戦争などでは「戦争をしたくない軍に、戦うことを政治家が強制する」という意味で用いられる言葉になったようです。本土戦でなければ、戦死するのは軍人だけですからねえ。

【ただいま読書中】『戦争の経済学』ポール・ポースト 著、 山形浩生 訳、 バジリコ、2007年、1800円(税別)
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4862380573/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&camp=767&creative=3999&creativeASIN=4862380573&link_code=as3&tag=m0kada-22
 戦争は経済に影響を与えます。まず心理的な影響から、株価が下がります。戦費調達によってほとんどの国でインフレが起きます。これはマクロ経済の話。戦争によって貿易の流れが阻害されるとミクロ経済も阻害されます。また「人命」も金に換算することが可能です。本書の試算では、ベトナム戦争は戦死者によってアメリカに710億ドルの経済損失をもたらしていますが(1968年当時)、これは2000年価格だと3550億ドルとなります。
 ところで、二十世紀のアメリカは本土戦を経験せず、戦争によって経済成長がもたらされたように見えます(そういえば日本も、本土が無関係な第一次世界大戦と朝鮮戦争では好況を享受できましたっけ)。そこで本書では、二つの世界大戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争、湾岸戦争、イラク戦争を検討し「戦争が経済に有益」である場合には「戦争前に低い経済成長で有休リソースが豊富、戦時中に巨額の政府支出が続く、自国が戦場にならない、期間が短い、資金調達が節度を持って行われている」という条件がそろったときである、という結論が出されます。逆に言えば、これらの条件のどれかが破綻したら「戦争は経済に有益ではない」となってくるわけです。
 ただ、政府と個別に契約が結べる企業にとっては「戦争は有利」です。近年正規軍が縮小しているアメリカでは予備役や州兵が大量動員されましたが、それは有能なエンジニアなどを引き抜かれた地域社会にダメージを与えました。
 「軍事費」そのものが国の経済(民間支出)や財政に与える影響についての考察も興味深いものです。ここで挙げられている「SIPRI年鑑」の「2002年軍事支出上位15ヶ国」(2000年のドル換算)では、ダントツは当然USAですが、2位はなんと日本です。ただし「対GDP」では1%となってヨーロッパ各国より下位に位置するのですが、日本は(少なくとも総額では)「軍事大国」扱いでした。ちなみに本書ではそれに関連して「憲法第9条」も取り上げられています。本書の他のテーマと同様、きわめて冷静な手つきで扱われていますが。
 1970〜80年代に米ソは軍拡競争を行いました。ゲーム理論では双方が軍拡を行うのは当然ですが、軍事支出の対GDP比が増えると、国の経済にどのような影響が出るか、がここで具体的に論じられます。軍備支出と民生品生産、それと主観的な安全感とを関数にしてその関連を見ると、軍拡競争がなぜ起きるか、その行き着く先はどのような国の状態か、が明確にわかります。
 軍人の数や徴兵と志願兵の構成比の章もあります。ここでは日本はみごとなくらい軍事小国です。ちなみに「軍人数」のトップは中国、現役軍人数の人口比でトップは北朝鮮です。では、徴兵制度と志願兵制度のどちらが“安上がり”でしょう? もちろん徴兵の方が(兵隊を集めるための)予算費用は低くなります(民間企業と人件費で競争する必要がありませんから)。しかし国としての機会費用(あきらめなければならないもの)は高くなります(熱意のない人や兵隊よりも有為な活動が社会でできた人を強制的に兵隊にしてしまうのですから)。
 民間軍事会社、軍需産業(と民生産業との関係)、テロとの戦い、などが「経済学の視点」から語られます。本書を読みながら私はそこはかとない違和感を感じ続けていたのですが、「内戦の原因は様々語られるが、紛争の真の原因は経済状況(貧困、資源採掘、強欲、少数民族からのリソース搾取、格差、など)だ」と喝破されると、私は一瞬たじろぎます。となると、他人ごとではないぞ、と。特に「自爆テロ」を経済的に解析したところでは、私は何度目かのたじろぎを感じてしまいました。
 「戦争は事業だ」という“宣言”が本書の最初にありますが、では「事業の収益性」は結局どうなのでしょう。最近の戦争は昔とは違って複雑かつ長期化の傾向があります。そこで例として取り上げられるのが「日清戦争」と「自衛隊のイラク派兵」です。まずは政府の財政的な分析が行われ、次いで日本経済全体での費用や便益の評価(経済分析)が行われます。というか、戦前の日本政府は日清・日露戦争での詳細な経済分析を行っているそうです。ということは、第二次世界大戦についても、きちんとした財政的分析と経済分析を行って“収支決算”をしておくべきじゃないでしょうか。次の戦争をするのなら、その“事業”がペイするかしないかくらいは知っておいてバチは当たらないはずです。


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