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2009年08月22日00:46

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本棚41『読売新聞「編集手帳」第15集』竹内政明(中公新書ラクレ)

 朝刊1面のコラムは、新聞の顔である。中でも、読売新聞のコラム「編集手帳」は、古今東西の文学作品や名言の引用から始まり、それが現代の社会にすっとつながるものが多く、数百字の小さな世界に引き込まれてゆく。

 昨年、職場で1年生の仕事のひとつである毎朝の新聞の切り抜きをしていた時、俳優緒形拳さんの逝去を悼む「編集手帳」の一文が、ふと目にとまった。俳優の卵であった頃の、貧しくも情熱に満ちた下積み時代を綴った文章に、諸々の雑用に追われる日々を送っていた自分は、なんだか励まされたような気がした。

「ご自身は「ウサギ飯」と名づけている。山ほどのおからにニンジンやネギを刻んで煮込み、ご飯にかける。うまくもあり、とにかく安い。
 緒形拳さんはかつて本紙に一文を寄せ、劇団の研究生だった当時を回想している。「三度三度おからを食べ、深夜のけいこで目を真っ赤にしていた私。全く、ウサギそのものであった」と。 
 家が貧しく、学費も生活費も自分の手で稼いで高校を卒業した。下積みの苦労話は誰にもあろうが、暗い部屋でひとり丼飯をかっ込む青年のギラギラした眼光を思い浮かべるとき、銀幕の中のその人を見ているようで手料理の挿話は忘れがたい。」

 夢を達成することは素晴らしいことであるが、実は、夢に向かってひた向きに努力していた時間、夢までの過程の方が幸せなのかもしれない―。そんなことを考えながら切り抜いたコラムは、今も職場の机の中にひっそりと眠っている。

「回想の文章にある。
「屋根にあいた穴から星の見える物置き小屋の中で、ミカン箱を並べたベッドに寝ながら、芝居の夢ばかり見ていた……」
その姿は青春期のひとこまのみならず、生涯を通しての自画像であったろう」
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