生物が代謝活動で微弱な電気を出していることは知られているが、深海底の熱水噴出域に電気エネルギーを用いて増殖する微生物のいることを、国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)、などの研究グループがこの6月にイギリスの科学誌「The ISME Journal」のオンライン版に発表した。
◎多様な電気活性微生物
研究グループは、熱水噴出域で電気を用いて二酸化炭素から有機物を電気合成して増殖できるものが存在していることを実験的に証明した。またゲノムデータベースの解析から、電気合成を行う細菌が世界中の深海熱水噴出域に広く分布していることも推定された。
電気が微生物のエネルギー源に使用されるという事実は、地球全体の微生物生態系の全貌を理解する上で重要で、電気を用いたバイオものづくりに貢献できる可能性もあり、今後の展開が期待される。
こうした電気活性微生物は、細胞外の固体物質と直接電子をやり取りできる微生物で、多様な環境に広く分布し、系統的にも細菌・古細菌・真核生物にまたがる多様性を持っている。
◎深海熱水噴出域を実験室で再現
電気活性微生物は電子の流れの方向により、電子を外部へ放出する「発電菌」と、外部から電子(電気)を取り込む「電気栄養性菌」に大別できる。冒頭に述べたように前者は良く知られているが、後者の電気栄養性菌は細胞外の電子を細胞内膜の呼吸鎖へ供給し生体エネルギーに変換している。特にこの電気由来の生体エネルギーを用いて二酸化炭素から有機物の合成を行う場合は「電気合成」と呼ばれる。電気合成は電力を直接的にバイオマス生産に利用できる点で注目される。
微生物電気合成に関する研究は、これまでも行われたことがあるが、その研究の多くは人為的に設計された電気化学条件で行われており、自然環境において微生物電気合成が成立するかという点についてはほとんど未解明だった。
自然界では、様々な環境で微弱な電流が発生していると考えられるが、電流発生の量や空間の制約などによりその実態把握は難しいとされてきた。
この点で、深海熱水系は特異な環境を提供している。JAMSTECではこれまでに深海熱水噴出域が天然の放電場として機能することを見出し、報告してきているが、このような安定的な放電場は電気合成微生物にとって有利な環境と考えらる(図)。
研究では、深海熱水噴出域の放電条件を実験室で模擬的に再現し、微生物の培養を行った。研究グループは培養液内の微生物の種類や細胞増殖を観察することで、この放電環境で電気合成的に生育できる微生物の探索を試みた。
◎エネルギー源は電気だけ、炭素源は二酸化炭素のみで増殖
中部沖縄トラフの深海熱水噴出孔(下の写真の上)から採取した岩石片試料を人工海水で満たした電気化学反応槽に設置し、熱水と同等の電位を岩石片に与えることで深海熱水噴出域での放電現象を実験室内に再現した(下の写真の下)。
この岩石片を微生物接種源として微生物の培養が行われ、その微生物叢を解析したところ、チオミクロラブダス属細菌の一種、SREC−4株の細胞が増殖し微生物群集の中で高度に優占していることが観察された。培養の途中で放電源を岩石片からカーボンフェルトに入れ替えてもSREC−4株の増殖と優占が観察された。この培地中には有機物は含まれておらず、エネルギー源は岩石片またはカーボンフェルトから供給される電気のみだった。また炭素源は培地中に含まれる二酸化炭素のみだった。
さらに、SREC−4株が二酸化炭素由来の炭素を細胞内に取り込んで有機物に変換していることも観察された。ちなみにSREC−4株のゲノムに電気合成能力に必要な遺伝子群が保持されていた。
◎電気合成を行えるのは深海熱水域の種だけ
こうした結果から、SREC−4株が深海熱水噴出域の放電条件で電気合成的に生育できることが明確に示された。また、チオミクロラブダス属細菌は海水環境に遍在しているが、これらのうち電気合成を行えるものは深海熱水噴出域から発見された種に限られ、その海域は世界中の熱水噴出域に及ぶという解析結果が得られた。
この研究により、自然環境、特に深海熱水噴出域の放電場において、微生物が電気を直接利用して生育できることが示された。これは、太陽光や有機物だけでなく、自然界に存在する微弱な電気も生命活動を支えるエネルギー源となり得ることを意味している。
ちなみに深海底の熱水噴出域は生命起源の有力候補地の1つと考えられている。この研究成果は、電気を利用した代謝機構が初期生命の誕生や進化に関与していた可能性を示唆している。
注 容量制限をオーバーしているため、読者の皆様方にまことに申し訳ありませんが、本日記に写真を掲載できません。
写真をご覧になりたい方は、お手数ですが、
https://plaza.rakuten.co.jp/libpubli2/diary/202610010000/をクリックし、楽天ブログに飛んでいただければ、写真を見ることができます。
昨年の今日の日記:「今年は登れなかった藻岩山の印象的な自然林、山であれだけの深い森にはなかなか出合えない」
https://plaza.rakuten.co.jp/libpubli2/diary/202510010000/
ログインしてコメントを確認・投稿する