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2022年05月05日19:29

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本棚484『窓ぎわのトットちゃん』黒柳徹子(講談社文庫)

 普段通勤の乗り換えでよく降りている自由が丘の駅の近くに、かつてこんな素敵な学校があったことに驚いた。

 前の小学校を退学になったトットちゃんこと黒柳徹子さんと、トモエ学園の小林校長先生との出会いの場面がいい。好奇心が強すぎて前の学校ではもてあまし気味に扱われていた「窓ぎわ」のトットちゃんの話にたっぷり四時間、小林先生は一生懸命に耳を傾けてくれた。小さいからといって子ども扱いせずに、ひとりの人間同士として全力で子どもに接する姿が印象的だった。

 トモエ学園には身体に障がいがある子たちもいたが、弱いひとを押しのけたりせず優しくすること、それぞれの子どもたちが持つ良さを伸ばすことなど、トモエ学園の教育は人間として最も大切なことを中心に据えているように感じた。

 また、古くなった電車を改装して作られた教室や図書室、「海のものと山のもの」の詰まったお弁当、見慣れた講堂が一変したテントでの野宿、自分たちで頑張って作った等々力渓谷での飯盒炊爨、海の中の温泉を背にみんなで撮った想い出の写真など、子どもたちの楽しく幸福な時間が伸びやかに描かれる。他方で、縁日で買ってもらったヒヨコの死から人生で最初に味わった「別れ」や、小児麻痺の泰明ちゃんのあまりにも早過ぎる死といった悲しみも触れられている。

 学校では、アメリカで生まれ育った生徒から皆英語を教わったりもした。そのトモエ学園も東京大空襲で焼け落ちてしまうが、日本全体が戦争の荒波に巻き込まれていく中、自由で伸びやかなサンクチュアリのような奇跡の場所に思えた。

「「アメリカ人は、鬼!」と、政府は、発表した。このとき、トモエのみんなは、声を揃えて、叫んでいた。「美しいは、ビューティフル!」トモエの上を通りすぎる風は暖かく、子供たちは、美しかった。」
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