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2019年11月28日20:15

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パラドックスは起こり得ない

 「私は嘘しか言わない。」と誰かが言ったとすると、この言葉は嘘か本当か、どちらだろう。答えは「嘘」。一見パラドクス風だが実はそうではない。たぶん、この人は本当のことを言うこともあるのだ。だから「嘘しか言わない」というのは嘘である。ということでパラドックスは成立していない。 

 「『すべてのクレタ人は嘘しか言わない。』とクレタ人が言った。」というのが、いわゆる「クレタ人の嘘」としてパラドックスの例として有名だ。しかし、これはなんの注釈もつけなければ、単にそのクレタ人が嘘を言っているだけのことでパラドックスでも何でもない。これがパラドックスになるには、「すべてのクレタ人は嘘しか言わない。」ということが本当である場合である。しかし、その前提が真であるとしたら、誰がこの言葉を言うのだろう? (誰も言わないはずである。) つまりこのパラドックスというのは、嘘つきが言うはずのない本当のことを言っている、というつまらない話でしかない。

 ウィトゲンシュタインは、パラドックスを単なる無意味としか見ていなかったようである。彼がケンブリッジで教鞭をとっている時に、彼の学生であった数学の天才チューリングとの間で次のようなやり取りがあった。

*====== ウィトゲンシュタインの講義 数学の基礎編 第22講より ======

チューリング : 「もし、誰かがフレーゲの記号体系を採用し、その掛け算の技術をある人に与えるとしたら、その与えられた人は、ラッセルのパラドックスを用いることによって間違った掛け算の結果を得ることがあり得るでしょう。」

ウィトゲンシュタイン: 「それは要するに、その人は我々が掛け算とは呼ばないであろうことをしている、ということだろう。その人に掛け算の規則を与える。そしてその人は、ある点まで達したら二つのやり方を選ぶことができる。そして、一方のやり方はひどいまちがいへとその人を導くのである。 私がリーズ(別の学生)に嘘つきパラドックスを納得させ、彼が『私は嘘をついている。したがって私は嘘をついていない。したがって、私は嘘をついており、かつ、嘘をついていない。したがって矛盾が存在する。したがって、2×2=369 である』と言うとして見よ。ともあれ、我々はこれを『掛け算』とは呼ぶべきではない。それだけのことなのだ。」

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