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2018年12月06日07:38

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薬師

 「やくし」と読んだら仏教ですが、「くすし」と読んだら昔の医者のことです。もしかして昔の日本の医者はお寺出身だった?

【ただいま読書中】『お薬師さまと生きる』安田暎胤 著、 春秋社、2018年、1800円(税別)
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 明治政府の神仏分離令は廃仏毀釈運動を引き起こし、さらに明治5年に明治政府は「どの寺も一つの宗派を標榜すること」と命令を出します。奈良の諸大寺は、鎌倉以降の宗派に属するわけにもいかず、六宗から選ぶことにしました。その結果、法隆寺・興福寺・薬師寺は法相宗、東大寺は華厳宗、唐招提寺は律宗、西大寺は真言律宗を標榜することになります。薬師寺は末寺を必要としましたが、法相宗の根本教義の唯識教学はあまりに難しいため、難しいことは言わず、加持祈祷を行っているような寺なら幅広く受け入れました。著者の祖母は新興宗教の教祖的な活動をしていましたが仏教の枠内で活動したいと考えていたため、薬師寺に受け入れてもらい、自宅を寺に改造しました。
 仏教は本来「あの世のための宗教」のはずですが、現世の人々のために尽くした「菩薩」もたくさんいます(観世音菩薩・勢至菩薩(阿弥陀の脇侍)、文殊菩薩・普賢菩薩(釈尊の脇侍)、日光菩薩・月光菩薩(薬師如来の脇侍)、地蔵菩薩、弥勒菩薩など)。日本では奈良時代の道昭菩薩や行基菩薩のように「菩薩」と呼称される人もいます。他に、悪を退治する「明王(代表は不動明王)」、インド神話の神が仏教に取り込まれた「天部(梵天、帝釈天、四天王など)」など、実に多神教的な世界となっています。八百万の神を信じる日本人からは受け入れやすい世界観です。
 薬師寺は、天武天皇が皇后の病気平癒を願って西暦680年に建立を発願されましたが、その完成を待たず崩御。皇后は持統天皇となって寺を完成させました。夫婦二人掛かりでの愛情の結晶のお寺です。平城遷都に伴い、718年に現在地に遷されています。
 「薬師経」は5種類ありますが、もっともポピュラーなのは玄奘三蔵が650年に翻訳した「薬師瑠璃光如来本願功徳経」です。
 唯識教学では、「五識(眼耳鼻舌身)」が「五根(眼耳鼻舌身)」を拠り所として対象である「五境(色声香味触)」を受け止め、それを「意識」が統合する、と考え、五識+意識の「六識」を中心に心を考えていました。しかし「外界」と「自分の内部のバーチャルな世界」とは、単に「一対一」対応はしていません。心の中にすでに「外界と似た何か」があってその「影」を見ているだけ、と唯識では考え、「世界を自分流に眺める要素」として「末那識(自己中心的な自我、自己への執着)」と「阿頼耶識(一番深い心の底の働きである根本識)」の二つの潜在意識を想定しました。
 フロイトより17世紀も前に「無意識」「潜在意識」を想定していたわけです。
 なお、著者が受けた「竪義(りゅうぎ)」という法相宗で最も権威ある行では、21日間座ったまま唯識教義の問答を暗誦し続け、その後問答でその結果を試験されるもので、やっていると文字通り脳裏に文字が焼き付けられるそうです。
 薬師如来が菩薩の道を修業していたときに、12の大願を立てたそうですが、その第六が「諸根具足の願」(身体不自由、五体不満足、身体障害、精神障害、認知症、種々の病で苦しむ人すべてを救いたい)です。第七の大願は「除病安楽の願」。この二つは「いかにも薬師如来」と言いたくなりますが、第八の大願にはびっくり。「転女得仏の願」ですが、女であることに苦しんで女体を捨てたい人には男性の体を与える」のだそうです。女性差別反対、と言っているようでもありますが、本書では性同一性障害者の苦しみを救う、と解釈されています。
 本書では「宗教上の不思議なエピソード」がいくつも紹介されていますが、印象的なのは、著者は「ソフトな態度」であることです。他の宗教を「邪宗」などと切り捨てる態度の対極。そういえば私の知り合いの浄土真宗のお坊さんは「いろんな宗教が世界にあるが、結局目指すところは同じなのかもしれない」と言っていましたっけ。大切なのはたぶん「自分の信仰が世界で一番」と我を誇ることではないのでしょうね。


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