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2017年08月23日07:05

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忘却

 「何だったっけなあ。思い出せない」で悩めるうちは、まだ大丈夫です。もっと深刻なのは「忘れたことさえ忘れてしまった状態」でしょう。でも、「忘れてしまった」で悩まずにすむだけ、そちらの方が本人は幸福かもしれません。

【ただいま読書中】『東海道四谷怪談』金原瑞人 著、 佐竹美保 絵、岩崎書店、2016年、1500円(税別)
https://www.amazon.co.jp/gp/product/4265049958/ref=as_li_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4265049958&linkCode=as2&tag=m0kada-22&linkId=5b10edd4a90371e6528681da73303b85
 私にとって「金原瑞人」は「優れた児童文学を片っ端から翻訳してくれるありがたい人」なのですが、今回は「訳者」ではなくて「著者」です。
 普段はコミカルなものばかりやっている高校の演劇部が、「とってもこわい怪談」をシリアスにやろうということになりました。ところが脚本の候補となった東海道四谷怪談が、DVDによって全然話が違うし、歌舞伎を観るのも困難だし、原作を読んでも原文どころか注釈さえ理解できません。そこで文芸部にヘルプを頼みます。文芸部の面々はざっと原作を読んで、「こんなに陰惨で救いがない話が、なんでこんなに人気を保っているんだろう」と不思議に思い、その脚色に乗り気になります。さて、文芸部がまとめた「東海道四谷怪談」のあらすじは……
 まず取り上げられるのは「忠臣蔵」です。実名を使うと幕府に対して差し障りがあるから、赤穂の殿様は「塩治判官(えんやはんがん)」、殿中で切りつけられたのは「高師直」と仮名を使ってのお芝居です。で、赤穂の浪人として民谷伊右衛門が登場。つまり「東海道四谷怪談」は「忠臣蔵」の“サイドストーリー”としての位置づけのお芝居だったのです。
 美男美女の浪人夫妻として長屋で目立っていた伊右衛門とお岩ですが、その周囲では殺伐たる動きが。お岩の父は伊右衛門に殺され、お岩の妹お袖の許嫁はお袖に横恋慕した悪党に殺され、伊右衛門に横恋慕して寝付いてしまったお梅は高師直の家臣の孫娘でお梅の父は「お岩を化け物にしたら伊右衛門は離縁して我が家に入り婿になってくれるに違いない」と思い詰めてお岩に一服盛ってしまいます。このお芝居には「善人」というものは存在しないんですか? 伊右衛門の家の押し入れに猿ぐつわをはめられ縛り上げられて閉じ込められている小僧の小平も、伊右衛門の貴重な薬を盗んで捕まっているし、その刀でお岩は“事故死”をしてしまうのです。さらにさらにお袖は、殺された許嫁の仇を討ってもらうために赤穂の浪人直助に身を任せますが,実は直助とお袖は……
 いやもう、誰が誰とどんな関係になっていて、誰が誰を殺したのか殺されたのか殺されていないのか、わけがわからなくなってしまいます。昔の人は舞台でこれを観ていて、一発でストーリーを理解できたんでしょうか?
 怨霊が手下として使うのは、ネズミと蛇です。ネズミなんか、猫を食い殺してしまいます。ところがこの劇のラストシーンでは、ネズミの群れが重要な“出演者”になるのですが、高校演劇でそれをどう表現するか、脚本担当者は頭を抱えます。
 「東海道四谷怪談がどのような物語なのか」を説明するために、一冊本を書いてしまう、というのは、大変な作業だったでしょう。「実物を観てくれ」でおしまいにする方が楽なはず。だけど、本書を読んだら、ある程度は「東海道四谷怪談」の魅力の一部がわかるだろうし、それで興味を持ったら原作やあるいはそこから派生した様々なドラマに当たってみると楽しいでしょう。
 ところで「四谷」は「東海道」にはありませんよね。ではなぜ「東海道四谷」なんでしょう?


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