mixiユーザー(id:235184)

2016年09月15日07:27

382 view

ワクチンにただ乗り

 日本に狂犬病は現時点ではありません。それは犬に対するワクチン集団接種が徹底していたからです。で「日本に狂犬病がない」ことを理由にして「ない病気はどうせ感染しないのだから、自分の犬くらいは打たなくても良いだろう」という人が出てくると、その人はワクチンの手間とお金が節約できることになります。いわば「他人が構築してくれた安全へのただ乗り」です。しかし、そういった人が増えると「狂犬病に対して無防備な犬」が増えることになります。そこにもしも狂犬病が輸入されてしまった場合、無防備な犬たちにあっという間に病気が広がり、ついで人にも病気が拡大してばたばた犬と人が死ぬことになります。
 そういえば「ワクチンで予防できている人の病気」に関しても「ワクチン否定論者」が「自分たちはワクチンは打たない」と宣言しています。これも一種の“ただ乗り”です(「安全地帯」を確保するためには自分の周りにワクチンを打った人が“堤防”として並んでいる必要がありますが、そのワクチンを打つコストやある確率で必ず出現する副反応のリスクは全部他人に押しつけているのですから)。で、“堤防”が突破されたときにその病気で本人が苦しむのは勝手ですが、免疫の力が弱くて最初からワクチンが打てない人やまだワクチンを打つ前の赤ちゃんたちにその病気をうつして回ったとき、その責任が取れるのかな?

【ただいま読書中】『狂犬病再侵入 ──日本国内における感染と発症のシミュレーション』神山恒夫 著、 地人書館、2008年、2200円(税別)
https://www.amazon.co.jp/gp/product/4805207981/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4805207981&linkCode=as2&tag=m0kada-22
 日本ではたまに海外で狂犬病にかかった人が出現するくらいで、国内で狂犬病が発生することはまずありません。世界では年間数万人が狂犬病で死んでいるので、これは良いことなのですが、これだけ発生しないと、人は忘れてしまいます。つまり、油断するし無防備になってしまう。こんな状態の日本に狂犬病が入ってきたらとんでもないことになるかもしれない、だからせめて知識は持っておこう(持ち続けておこう)と著者は主張しています。
 狂犬病はほとんどの哺乳類に感染します。そして、動物から人に感染します。体内に侵入したウイルスは神経に取り付き、1日に1cm〜5cmの速度で脳を目指して移動します。この時期が潜伏期で、血液を検査してもウイルスが存在するかどうかはわかりません。潜伏期は、犬だと1箇月くらい、人だと3箇月(長い人では1年以上)です。これは体の大きさ(神経の長さ)の違いからでしょう。非常に不気味な話ですが、潜伏期が長いからこそ、その間にワクチンを打って免疫をつけて発病しないようにする「暴露後ワクチン接種」が可能になります。現時点ではこれが唯一の発病予防対策です。
 ウイルスが脊髄に到達すると、風邪のような症状や憂鬱、痛みやしびれが出現します。そしてウイルスが脳に到達するとウイルスは爆発的に増殖し、興奮・狂騒・唾液分泌増加・恐水といった神経の症状が出現、そして昏睡状態から死に至ります(いったん症状が出たら、致死率は100%です)。
 人に狂犬病をうつす動物でよく知られているのは、犬・猫。USA東部ではアライグマ。北アメリカやヨーロッパではコウモリ。ブラジルでは牛の狂犬病が多いのですが、感染源は吸血コウモリです。
 狂犬病ワクチンを開発したのはパスツール、は有名な話ですが、それを大々的に用いることで社会から狂犬病をほぼ根絶して世界のお手本になったのは日本、はあまり知られていません。そういえば私が子供の頃には「飼い犬は、登録と予防注射を」と保健所が盛んに宣伝していましたっけ。犬に集団接種をすることで清浄地帯を作り、それによって病気の流行を抑えて根絶に持ち込む、という手法は、後に天然痘対策でも用いられました。
 「狂犬」の記載は、古代メソポタミアのエシュヌンナ法典(紀元前23世紀、ハンムラビ法典より古い)にあります。これは単に「コントロール不能になった犬」のことかもしれませんが、狂犬病の犬、と解釈する人もいるそうです。日本では「養老律令」に「狂れ(たぶれ)犬」の記載があります。ただ、江戸時代の「生類憐れみの令」で江戸(現在の中野区)に作られた野犬収容所(最大8万匹以上収容)で狂犬病の発生がなかったことから、日本(少なくとも江戸市中)では狂犬病はそれほどのものではなかったのではないか、と著者は推定しています。生類憐れみの令が廃されて20年くらい後、本草学者野呂元丈は「長崎にオランダ人が持ち込んだ犬の病気が犬から犬に広がり、やがて狸・狐・狼・馬さらには人にも感染して日本の東や北に広まった」と記録を残しています。もしかしたらそれまでの日本には奇跡的に狂犬病ウイルスは入っていなかったのかもしれません。明治以降の年表がありますが、狂犬病の流行は全国どこでもあり、死者が次々出ています。そこで犬に対するワクチン接種が行われたわけです。これも一本道で話が進んだわけではなく、関東大震災で病気の再流行があったりして公衆衛生の担当者は大変だったようです。それでも1930年代には日本での狂犬病の発生はゼロになったのですが、その努力をご破算にしたのが戦争。1940年代後半にはまた全国で死者が数十名のレベルになってしまいました。だからあの頃「野犬狩り」がたいそう熱心におこなわれたんですね。
 世界中も努力していますが、清浄国の多くが、島国か半島の国である点が興味深く思えます。野生動物も関係する病気の場合「地理」も重要なようです。
 さて、ここからが「再侵入」のシナリオ展開です。今の日本に狂犬病ウイルスが侵入したら何が起きるかの紙上シミュレーション。これがなかなか難しい。「水際作戦」は有効ではない、と著者は言い切っていますが、それはそうでしょうね。「新型インフルエンザ」の時でも、空港での水際作戦は簡単に突破されてしまいましたし、狂犬病の場合には密輸ペットなんてルートもありますから。
 となると必要なのは、「覚悟」でしょうか。「狂犬病は再侵入してくる」と覚悟を決めて(想定をして)「ではその場合に何をするか」をきちんと決めておく。日本お得意の「想定外だから何も準備していません」にはしない。だけどこれって「伝統的に不得意なやり方」だから、上手くいくかどうか自信がありません。だけどこうやって考えておけば、狂犬病以外の病気が流行するか危険性が高まったときにも「流行予防の基本路線」はそのまま活かせると私は考えます。
 日本の政府がそう考えていたら良いんですけどねえ。


4 2

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2016年09月>
    123
45678910
11121314151617
18192021222324
252627282930