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2016年07月21日20:33

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人口論

 あの世でマルサスさんは「何を計算違いしたんだろうか」と不思議に思っているかもしれません。

【ただいま読書中】『食糧と人類 ──飢餓を克服した大増産の文明史』ルース・ドフリース 著、 小川敏子 訳、 日本経済新聞出版社、2016年、2400円(税別)
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 ヒトは狩猟採集から農耕、そして都市生活へとその生活スタイルを転換させてきました。著者によると、2007年5月は、人類の過半数が都市生活者になった画期的なポイントなのだそうです。著者は人類の歴史を「文化と技術」ではなくて「食糧と創意工夫」という観点から眺めよう、と提唱しています。
 有名な「アイルランドのジャガイモ飢饉」は、「前進(ジャガイモによる食生活の改善)」「危機(ジャガイモの疫病と飢餓)」「方向転換(人口の流出と新しいタイプのジャガイモの採用)」と一般化することで、著者には「人類と食糧の関係の歴史的縮図」だそうです。この「前進」「危機」「方向転換」のサイクルを人類は歴史の黎明期から繰り返し続けていました。これからも続けるでしょう。ただここで問題になるのは「全地球的な都市化」という“前例のない状況”に私たちが生きていることです。
 著者はまず地球の歴史を見ます。そこには宇宙でも珍しいであろう「炭素の循環サイクル」がありました。農業はその循環の中に位置づけられます。次は人類の歴史。大きな脳と短い消化器官の組み合わせは、料理によってもたらされたのか、あるいは逆にそういった生物だから料理をしないと生存が不可能だったのか、一体どちらでしょう?
 野生の植物と動物で人間にとって都合の良いものには改良が加えられ、栽培種・家畜が誕生しました。それが最初に行われたのは、約1万2000年前〜4500年前の間、場所は、肥沃な三日月地帯・中国・南アジア・地中海沿岸・エチオピア・メソアメリカ・アンデス・北米東部・ニューギニアとアマゾン。人類20万年の歴史からは、ほんの一瞬で人類は大きな方向転換をしました。
 土壌中の窒素やリンは“有限の資源”です。原始的と言われることがある焼き畑農業は、その貴重な資源のリサイクルに有効な手段でした。エネルギーも重要ですが、人は動物を労働させることで太陽エネルギーを食糧に変えました。18世紀イングランドの「農業革命」(ジャガイモなどの導入、クローバーで窒素を固定、家畜の活用、家畜や人の屎尿を肥やしに)によって余剰農産物が生まれます。増大する都会の需要に応えようと農業はさらに増産を目指し、森林は伐採されます。燃料が枯渇し石炭に注目が集まりますが、それは同時に産業革命の準備をすることになりました。
 アメリカ中西部では「モノカルチャー(大規模農園での、ダイズ、トウモロコシ、小麦など単一品種の大量生産)」が行われています。これは人や産業にとってはありがたいことですが、同時にありがたくないお客(病原菌や害虫など)も呼びよせることになります。そこで登場したのが、合成殺虫剤(代表がDDT)。ところが外来の害虫を全滅させる、という目論見は成功せず、在来の昆虫ばかりが(あるいは鳥や動物が)大打撃を受けることが繰り返されました。そこで世間に衝撃を与えたのが『沈黙の春』(レイチェル・カーソン)ですが、これを「化学物質の毒性で死ぬか飢餓で死ぬか、だ」(『沈黙の春』批判者)と捉えるのは極端すぎるでしょう。というか、レイチェル・カーソンは「DDTはワルモノだ」なんて言ってませんし(少なくとも私はあの本をそう読解しましたし、本書の著者もまた同じ見解のようです)。
 マルサスの予言を覆そうと「緑の革命」が進みます。しかし潤沢な食糧の供給は人口の増加を招き、それがさらなる食糧の増産を要求します。また「緑の革命」は「奇跡の種子・化学肥料・灌漑設備・機械」の“パッケージ”一括購入形式のため、資金的な余裕がない人は利用できません。大量の水がくみ上げられて枯渇したりの負の側面も持っています。
 大都市の食料品店には、人類の「食の歴史」が凝縮されています。その品揃えを見ながら著者は考えます。人類は「危機」にあうたびに創意工夫でなんとかそれを乗り切ってきました。そして、現在の危機もまたそうやって乗り切っていくだろう。ただ、闇雲に人類のことだけを考えて危機に対処するのではなくて、地球規模で物事を考えていくべきではないだろうか、というのが著者のものの考え方です。持続可能な農業と人類文明であるために、私たちに何ができるのか、を考えるのは、私たちの仕事でしょう。


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