mixiユーザー(id:235184)

2016年06月30日18:41

274 view

海の男のウォーミングアップ

 私が若い頃に夢中になって読んだシリーズの一つに「海の男ホーンブロワーシリーズ」があります。友人に勧められて軽い気持ちで読み始めたら、あっさりはまってしまいましたっけ。そろそろ読み返してみようか、と思うのですが、同じ著者の別の本をまず読んで見ることにしました。こちらは未読だったのでホーンブロワーの“ウォーミングアップ”として良いのではないか、なんて思いまして。

【ただいま読書中】『ネルソン提督伝 ──“われ、本分を尽くせり”』C.S.フォレスター 著、 高津幸枝 訳、 東洋書林、2002年、2800円(税別)
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4887215932/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4887215932&linkCode=as2&tag=m0kada-22
 そういえばホーンブロワーにもネルソンの葬儀のシーンがあったことを思い出しました。「われ、本分を尽くせり」は、ネルソンがトラファルガーの海戦の指揮を執って勝利を得、自身は死んでいく直前に残した言葉だそうです。
 ノーフォークの貧しい牧師館の息子は12才で将来を決めます。叔父が英国海軍の艦長であるコネを活かして海軍に入ったのです。西インド諸島やテムズ川で厳しく鍛えられた少年は頭角を現します。病弱というハンディはありましたが、士官候補生として専門的な訓練を受けることができるようになります。
 当時のイギリス海軍が抱えていた一番大きな問題点は、敵であるフランス海軍が戦いをしぶることでした。それを英国海軍は理解せずに戦いを挑もうとして,結局チャンスを逃し続けていました。若きネルソンは独自の視点から戦争を学びます。行動から見る彼の性格は、活動的で挑戦的。何かを選択しなければならない局面では、必ず挑戦の方を選んでいます。さらに、当時の軍人としては珍しく飲酒はほどほどに控え、経済的な儲けよりは戦術的な勝利の方を選ぶため、熱烈なファンもつきますが、しぶとい敵も作ってしまいます。
 フランス革命の火の手がフランス中に広がり、それを抑えるために各王国が協力できるかどうか、が大きな問題となりました。そこでサルディーニャに派遣されたのがネルソンでした。フッド提督には人を見る目があったのです。そこには英国公使サー・ウィリアム・ハミルトンが新妻のエマといました。ネルソンの目的は夫の方で、彼を通してナポリ国王にお近づきになりたかったのですが、エマの方も後にネルソンの人生に非常に大きな影響を与えることになります。
 コルシカを焦点とした地中海での海戦で、ネルソンは小さめの戦列艦の艦長でしたが、「提督の不決断がいかに勝利を遠ざけてしまうか」を学んでしまいます。地中海から撤退した英国艦隊はスペイン艦隊と交戦、そこでネルソンは硬直化した艦隊運用指令を無視して縦列から独断で離れて行動し、英国に勝利をもたらします。これは一部の人(上からの命令が絶対の人びと)には、眉をひそめられる行動でした。しかし、勝利は勝利です。
 ところが、好事魔多し、サンタクルスへの上陸奇襲攻撃でネルソンは右腕を切断する重傷を負います。ネルソンはこれでもう海軍からお払い箱だ、と悲観しますが、海軍当局は「左腕の提督」の有用性を認めていました。
 ネルソン自身は「部下の有用性」を認めていました。信頼と賞賛を与え、「(当時の常識である)何が何でもの絶対服従」ではなくて「厳しい規律とある程度の自由裁量」を認めます。そのためネルソンの艦隊は持てる能力のほとんどを戦闘時に発揮できることになりました。それが如実にわかるのが「ナイルの海戦」です。イギリスの封鎖線をまんまとすり抜けてエジプトに到達した(そしてナポレオンを上陸させた)フランス艦隊を、その帰路にネルソン艦隊が一方的に撃破した戦いです。ほぼ同規模の艦隊同士の決戦で一方が他方を壊滅させたのは、歴史上ではあとは日本海海戦くらいしかないそうです。
 この海戦のあと、エマ・ハミルトン(夫人)がまたネルソンの人生に登場します。こんどは愛人として。
 ネルソンはフランス艦隊を港に封鎖し、そこから脱出したものは大西洋を横断してまで追い回します。そしてトラファルガルの海戦。フランス海軍が総力を結集した艦隊を打ち破れば、もうフランスは海への進出をあきらめるでしょう。それはすなわち、大英帝国(海の帝国)が誕生する日です。そこでネルソンは、それまでの常識を排して、敵艦隊の一部に攻撃を集中させるために自分の艦隊を敢えて分断する、という作戦を立てます。向こう見ずと紙一重の英断でした。しかし、その英断をきちんと実行できる人びとが、ネルソンの艦隊にはたくさん存在していたのです。
 著者はネルソンを敬愛しているようです。単なる「ヒーロー」として崇拝するのではなくて、欠点も丸ごと含めてその存在を受け入れいているような書き方です。実際に欠点も多い人のようですが、それを補ってあまりある美点が満ちあふれていた魅力的な人のようです。だから著者は「なんでこんな失敗をするかなあ。でも、しかたないよね。ネルソンはそんな人だもの」といった感じで文章を綴っています。
 さて、それでは、時が満ちたら「ホーンブロワー」の世界に私も突入することにしましょう。


0 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2016年06月>
   1234
567891011
12131415161718
19202122232425
2627282930