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2016年05月30日06:41

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オリンピックの経済効果

 「オリンピックをしたら儲かるから投資しろ」と主張する人が、オリンピック開催に全財産を投資した、という話がどのくらいありましたっけ? そういった人はむしろ仕事をもらって(あるいは仕事さえせずに)お金を受け取る側に回ってません? つまり「オリンピックは儲かるから、自分に金を払え」と言っているような。それはたしかに「儲かる」でしょうね。

【ただいま読書中】『オリンピック経済幻想論 ──2020年東京五輪で日本が失うもの』アンドリュー・ジンバリスト 著、 田端優 訳、 ブックマン社、2016年、1600円(税別)
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 「オリンピックが経済を活性化させる」と毎年世界中のどこかで主張されています。ではそれは実証された事実なのか、本書ではその検証を試みます。短期的な経済効果、長期的な効果、そして負債。それらをきちんと計算したら、さて、どうなるでしょう?(先日読書した『専門家の予測はサルにも劣る』(ダン・ガードナー)のこともどこかで意識しておいた方が良いでしょう)
 1964年の東京オリンピックではたしかに「経済成長」が日本にもたらされました。ただ、それは「オリンピックなし」では達成不可能なものだったでしょうか? ついでに「負の遺産」も様々生じていますし、日本はオリンピック開催の財源として世界銀行から借りた金の返済に30年かかっています。長野オリンピックでは、賄賂の噂が流れると長野の組織委員会は帳簿を焼却してしまいました。よほど公表されては都合の悪い金の流れが記載されていたのでしょうね。
 72年のミュンヘンではテロリストの襲撃事件が発生し76年のモントリオールオリンピックで16億カナダドルの負債を生じたのを見て、1984年のオリンピック開催都市に立候補したのは、ロサンゼルスだけでした。IOCは赤字が生じたら補填すると約束しますが、結果は記録的な大黒字。これで潮目が変わります。「オリンピックは儲かる」となり、招致活動だけで1億ドルかけるのも珍しくなくなりました。同時にIOC会長や委員たちは、王侯貴族のような生活をするようになります。石原や桝添都知事の贅沢旅行なんか目じゃないくらいの大贅沢旅行や家族や親類への贈与や供与を楽しめるようになったのです。
 事前分析で「バラ色の未来」が語られます。ところがそれらの予測はいくつもの問題を内包しています。たとえば「観光収入」は、「オリンピックでのプラスアルファ分」ではなくて「ふだんでも訪問する観光客」の分も含んでいます。オリンピックのために訪問した人は競技場には行きますが他の観光地には行かずにその分地元の収入は減ります。国際チェーンのホテルへの支出は、地元には落ちません。スポーツ施設とスポーツ施設以外のインフラへの支出は莫大なものになりますが、それは短期間で完成させなければならないために割高になった分を含んでいます。工事中およびオリンピック期間中には地元のビジネスは制限をされてそれは地元経済に打撃です。さらにIOCはすべての広告看板をオリンピックのスポンサー企業用に空けるように開催都市に要求します。これはふだん広告を出している地元企業に違約補償金を払わなければならないことを意味します。
 短期的な収入増加が不確実な場合、“専門家”は「長期的な経済効果(遺産)」の存在を主張します。ところがその実在を証明することは困難(ほとんど不可能)です。さらに、それらが実在しなくても、“専門家”は責任をとりません。「まだその時期ではない」と言うだけです。
 著者は各オリンピックについて、短期と長期の「経済効果」について検証をしていますが、その結果は散々なものです。確実に上昇するのは「地価」「犯罪発生率(年間10%の増加)」「施設の“その後”の維持費負担(長野のメイン会場はその後野球場になりました。ところで長野にプロの野球球団なんかがありましたっけ? アテネや北京の施設はもっと悲惨な状況です)」……
 「バルセロナ」は、貴重な「成功例」です。しかしそれは「バルセロナの特殊性」が大きく作用しているようです。本書に列挙されたその特殊性を読むと、「オリンピックがバルセロナで成功した」のではなくて「“バルセロナ”がオリンピック(など)で成功した」と表現した方が良さそうです。
 ソチは特に悲惨な失敗例です。招致時にIOCに示した予算は103億ドル。しかし“決算”は(表に出てきた数字だけで)510億ドル。本当につぎ込まれた金額は国家機密で不明です。もっともロシア政府は2億1600万ドルの“黒字”になったと発表しています。数字のマジックですね。
 さて、私が気になるのはこんどの東京オリンピックですが、自信たっぷりに「絶対に大丈夫」と断言している専門家たちは、その(自信ではなくて)主張の正しさの根拠を(本書の著者のように)きちんと示せるのでしょうか?


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