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2016年05月25日06:59

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相関関係と因果関係

 連続放火現場で一人の特定人物がどこの現場でも目撃されたら、その人には「放火」と何か特別な関係がある、と疑うことが可能になります。ただ、その人が放火犯人である、と軽々に決めつけない方がよいです。相関関係と因果関係は無関係ですから。たとえばこの連続放火事件の場合だったら、その人は消防や報道の人かもしれません。
 ある特定の人とほぼ毎日数メートル以内の距離で長時間一緒に過ごしていても、その人と特別な関係があるとは限りません。クラスメイトとか職場の同僚かもしれませんから。
 「特別な関係」を立証するためには、そういった表面的な現象だけではなくて、その“奥”に「特別な関係」があることを証明する必要があります。それができて初めてその主張には「根拠」が与えられたことになります。根拠がない主張は、ただの思い込みや妄想と差がありません。

【ただいま読書中】『カイワレの悲劇』武藤弓子 著、 杉並けやき出版、2009年、952円(税別)
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 1996年7月、堺市でo(オー)157による学童集団食中毒が発生しました。厚生省は「カイワレダイコンが原因食材である可能性が高い」と発表。これは直ちにマスコミによって盛んに報道され、それを聞いた人は「カイワレが犯人」と単純化して受け止めました。
 2004年12月、カイワレ業者が起した損害賠償訴訟で最高裁によって国の敗訴が確定しました。しかし厚労省も食品安全委員会も、そして一般市民も、「あの食中毒の原因はカイワレ」と信じ続けています。
 著者は、あの事件からどんな教訓が得られたのか、それを「次の新しい食中毒事件」で生かすことができるのか、という視点から本書を執筆したそうです。日本では「とりあえず怪しい奴が捕まった」と報道されたら「あいつが犯人だったのか。もう捕まったから大丈夫だよね」と安心して忘れてしまう傾向があります。だけど「そいつが本当に真犯人なのか」と「もう忘れて良いのか」と「再発予防にはどうすればよいのか」という追究と考察と具体的な対策構築はそこから始まるはずなのです。
 「o157」は動物の腸管内に住んでいて、そこから体外に出て食品を汚染して感染を広げます。人間の場合潜伏期は1〜10日。堺市の食中毒では、保存されていた給食から菌や毒素は検出されませんでした。それは当時の保存期間が「3日」だったからでしょう(直後に保存期間は「2週間」に改定されています)。ともかく「証拠」がないので「汚染された食材」は特定されていません。
 そこで厚生省は「疫学調査」をおこない、原因メニューを「冷やしうどん(中区・南区)」「とり肉とレタスの甘酢和え」に絞った上で、その共通食材「カイワレ」を「犯人」扱いしました。ところがこの「疫学調査」で調べられたのは、「学童発症者の8%」「堺市の全学童の1.04%」だけでした。私には「標本数が少なすぎる」と感じられます。6000人以上の発症者の中から、調べやすいところだけ調べてそれで全体を論じるのは科学的には安易な態度に思えます(「安易」が問題発言なら、「不公正」「非倫理的」「非科学的」「恣意的」に置き換えてもよいです)。さらに、カイワレそのものやその製造工程から「o157」は検出されていません(消毒された種を水耕栽培する過程で、どうやったら「o157」で汚染できるだろうか、と私はそちらの方が不思議です)。さらに「細菌フリー」でもそのカイワレで「o157食中毒」が起こせるのなら、その日学校給食以外に出荷した先でも同じ食中毒が起きるはずです。起きていましたっけ?(ちなみにこの指摘に対して「学童と成人では発症率に差があるから学校外では食中毒が起きなかった」と反論した人がいましたが、その学校給食で学校職員(当然成人)も(発症率は学童の1/3くらいですが)結構発症している事実をどうして無視できるのか、不思議です) ついでですが、名指しをされた業者が当日出荷したカイワレのうち、学校給食に回ったのは5%未満です。さらについでですが、当時大阪府(堺市の集団食中毒以外)で発症していたo157食中毒患者で「カイワレを食べた人」は「食べなかった人」と比較して圧倒的に少数派でした。
 私が当時疑ったのは「調理環境」でした。汚染されたまな板で切ったら、どんな食材も汚染されてしまいます。病気の人間がきちんと手洗いせずに調理したら、どんな食材も汚染されてしまいます(「チフスのメアリー」を思い出します)。だけど「10日前の調理環境」の再現は困難です。困難なことをやるよりも、安易にできる食材からの“犯人捜し”をやったのではないか、と私は疑いの目を向けています。
 「o157」のDNA解析もおこなわれました。その結果政府は「やっぱりカイワレが犯人」と言いますが、著者が注目するのは、堺市以外で発生した「o157食中毒患者」で「カイワレを食べていない」のに同じDNAパターンを示す人がいることです。この場合こそ「共通食材」を「疫学的」にでも「細菌学的」にでも調査・特定する必要がありそうです。しかし政府はあっさりその研究を打ち切り、むしろ「カイワレの種子が汚染されていたらどうなるか」「水耕栽培の水が汚染されていたらどうなるか」の研究に熱中しました。実物はどちらもクリーンだったので「仮定」の研究に過ぎないのですが。
 政府の対応はあまりに不自然です。「カイワレ」にだけ集中して、流通・調理現場の衛生や別の食材については露骨に無視を続けました。その不自然さには、何か公表できない別の理由でもあるのか?と私はいぶかしさを感じます。当時もそれは感じましたし、今でも感じています。そうそう、厚生省は堺市の集団食中毒の直後、7月26日に「と畜場及び食肉処理場の衛生管理について」という通達を出して新しい衛生基準(たとえば肉を低温保存する義務)を示しました。タイミングは偶然の一致かもしれませんけれど。
 報道も無責任です。当時の新聞の見出しが本書では一覧で見えますが、どれも一面で「カイワレが犯人である」という印象を与える見出しばかり。ところが最高裁の判決が出たときは、あっさり「ほぼ無視」です。つまり「真相」にも「教訓」にも「予防」にも興味がない、ということ? そういえば、政府はきちんと事件の総括や謝罪をしましたっけ? 最高裁の判決は、無視?


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