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2015年11月13日06:58

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反・反戦

 「反戦家」の対義語は何になるのでしょう。「好戦家」? あるいは「戦争愛好者」? どちらにしても、「反戦」に対する攻撃力が強いわけは、わかるような気がします。

【ただいま読書中】『世界恐慌 ──経済を破綻させた4人の中央銀行総裁(下)』ライアカット・アハメド 著、 吉田利子 訳、 筑摩書房(筑摩選書)、2013年、1600円(税別)
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 戦後の苦しい調整局面が一段落し、景気は離陸しました。中央銀行のバンカーたちは、バブルを恐れながら、活気のある経済と物価の安定を目指します。ドイツはハイパーインフレの悪夢から脱し、ヒトラーなどのビアホール一揆もとりあえず片付き、経済は順調に伸びます。その原動力は、外資によって経済を成長させ、賠償金より融資返済を優先させるという「ドーズ・プラン」でした。金がだぶついていたアメリカ資本家は先を争ってドイツに投資しました。
 フランスにはイギリスポンドが大量に流入し、英仏の関係はぎくしゃくします。フランスに存在する大量のポンドのため、イギリスの金本位制は不安定となります(フランス中央銀行がその気になったら、即座にポンドと金の交換を要求できるからです)。アメリカの株式市場はバブルとなっていました。この「アメリカのバブル」「金本位制の不安定性」「ドイツの外国からの過剰な借り入れ」、これこそが20年代の終わりに世界経済に大混乱を引き起こす要因でしたが、各国の中央銀行はそのことに気づかず、いつもの小競り合いに忙しくしていました。
 そして4人のバンカーは秘密の会議を開催し、ポンドを支えるため1927年8月に連邦準備制度の金利引き下げを決定します。アメリカ株式市場は湧きます。沸騰します。慌てて金利を引き上げましたが、遅すぎました。金利引き下げという火花は、大規模な山火事を引き起こしてしまったのです。もともとニューヨークダウの上昇は、実体経済の反映でした。しかし27年秋からは「バブル」が始まったのです。株価はどんどん上昇、熱狂がアメリカ全土を覆い、素人の投機家が大量に参入、「新時代の到来」が合い言葉となります。ゼネラル・モーターズ(10年で株価が20倍)やRCA(こちらは70倍)の“次”が血眼で探されます。中央銀行はバブルを何とか無事に着地させようと努力をします。しかし意見は割れ(しかもどの陣営の意見も部分的には正しく)、結局何も有効な手は打てません。
 アメリカの狂乱は、ドイツからの資金の引き上げをもたらしました。そのため29年始めからドイツは不況に突入します。そのさなか、戦争賠償金の難儀な国際会議が。なんとドイツは36年間5億ドルずつ、さらに22年間3億7500万ドル支払い続けることが決まります。交渉に臨んだライヒスバンク総裁シャハトは暗い予感を抱きます。これでドイツはどん底に落とされるだろう、と。そして、ケインズもまた、シャハトと同意見でした。しかしケインズも、世界恐慌までは予想していませんでした。
 「暗黒の木曜日」の前に、いくつかの“事件”が起きます。後知恵ではバブル破裂の前兆とも言えるものですが、当時はそれはほとんどの人には見過ごされました。そして「暗黒の木曜日」。そして「悲劇の火曜日」。株式市場と銀行は悲鳴を上げます。その危機のさなかでも、連邦準備制度理事会とニューヨーク連銀はこれまでの諍い(主導権争いと相手の行動の妨害)を続けます。そして、アメリカGNPの半分に当たるお金が消失しました。消費は冷え込み、工業生産は落ち込み、失業者が増えます。そしてそれは、世界に波及しました。グローバリズムの世界では、暴落も不況もグローバルなのです。例外はフランス。フランを低く抑えておくという戦略が当たり、世界中の金がフランスに流入しました。イギリスはフランスに対する反感を募らせます。ここで著者は「プライドが高くて高圧的な英国と自己中心的で傲慢なフランスはがっぷりと組み合うことになり、フランスの金の山はますます高くなっていった」と述べています。
 ドイツは、対外債務・賠償・不況によって大揺れに揺れていました。その揺れを増幅させたのが、中央銀行総裁シャハトです。国の方針に公然と逆らうパフォーマンスで連合国との賠償金交渉を難航させ、そしてさっさと辞職。崩壊するドイツ経済を“安全地帯”から傍観していたシャハトは、急成長するナチスに接近します。
 31年オーストリアの小さな銀行の危機が、最終的に世界を揺るがす大事件に発展します。ドイツも危機に陥り、それに対処しようとアメリカとフランスがだらだらと交渉をしている間に、危機は危篤状態に進展します。ドイツはとうとう金本位制から離脱。ナチスはますます元気になります。
 次はイギリスの番でした。イギリスからも金が大量に流出。とうとうイギリスも金本位制を維持できなくなってしまいます。そしてアメリカも、信用収縮と債務不履行の悪循環にはまってしまいます。古き良き19世紀の金本位制は、ついに終焉を迎えたのです。
 本書を読んでいて、似た状況は最近もあった、と思いました、というか、著者はそれを指摘しています。で、過去の教訓から何を学ぶのか、なんですが、「知性」と「権力」って、相性が悪いんでしょうか、なかなか権力者が知性的な対応をしないことが、今も昔も大きな問題だ、ということも本書から学べます。困ったものです。


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