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2015年10月03日07:02

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不幸の原因

 貧困や失業の原因を移民のせいにする人がいます。だけど移民が仕事にありつけたのは、その仕事をする“国民”が足りなかったからですよね。
 ところで、奴隷や家畜に仕事を奪われた、と文句を言っていた人って、これまでの歴史にどのくらいいましたっけ?

【ただいま読書中】『腎臓病と人工透析の現代史 ──「選択」を強いられる患者たち』有吉玲子 著、 生活書院、2013年、3200円(税別)
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4865000178/ref=as_li_qf_sp_asin_tl?ie=UTF8&camp=767&creative=3999&creativeASIN=4865000178&link_code=as3&tag=m0kada-22
 最初はコストの話です。人工(血液)透析は一箇月に40万円くらいかかります。腹膜透析は50万円くらい。生体腎移植は最初の1年に725万円かかりますが、2年目からは月に15万円になります。そして日本全体で透析患者は30万人。一生涯で単純計算したら移植の方が安くつきますし、フランスでは移植の方を国の方針として推進していますが、日本では移植より人工透析が選択されています。
 「医療費を減らせ」と主張する人は当然人工透析を目の敵にします。そのため「終末期患者では透析中止を」と提言されます。ところでその提言を真に受けて医者が透析を中止したら、殺人罪で告発されちゃいません? それと、なぜ移植の方を“提言”しないのでしょう?
 アメリカで人工腎臓が商品化されたのは1956年。最初は急性腎不全患者が対象でした。何回か透析をしたら腎機能が回復して「治療」が完了する、というスタイルです。長期間の透析が必要な慢性腎不全患者が人工透析を受けられるようになったのは、1960年に何回も使える「外シャント(動脈と静脈をテフロンチューブで結合させる手術。そこに透析のための太い針を入れることが可能になる)」が開発されてからです。これは後に「内シャント(動脈と静脈を直接結合させて静脈を太くする)」に置き換えられていきます。そこでおこなわれたのが、患者の「選別」でした。先端技術であるために提供できる場は限定され、さらに医療費は高額です。そこでいわゆる「神様委員会」が設置され、そこでどの患者に人工透析を提供するかを決定しました。まず(医師による)「医学諮問委員会」で「この患者には人工透析が必要である」ことが確認されます。ついで(善良な市民からなる)「選抜方針委員会」で患者の条件(年齢、扶養家族、収入、将来性、など)を見て、どの患者に人工透析をおこなうか(おこなわないか)を決めていたのです。ここで特異なのは「市民の参加」です。陪審員制度みたいですね。この「医療の決定への市民参加」は後の移植コーディネーター(誰に移植するかを医者が決定しない)にもつながっているのかもしれません。
 日本でも「選別」がおこなわれていました。こちらは「金」による選別です。健康保険はありますが自己負担が払いきれなくなったら、そこでおしまい。さらに人工腎臓の絶対的な不足。これは個人で扱うには大きすぎる問題です。そこで患者会が各地に結成され、全腎協へと発展します。
 「金による患者の選別」を防ぐため、人工透析は身体障害で扱うことにしましたが、健康保険によって自己負担率に差が出ます。それを補うために更生医療とか高額療養費制度が追加されます。また同じ頃「難病」という概念が浮上しましたが、こちらは「特定疾患」として(医学ではなくて)行政が指定する仕組みとなりました。グランドデザイン無しで場当たり的に厚生行政がおこなわれています。なんだか、増改築を繰り返して迷路になっていく旅館のようです。「一貫した福祉行政をおこなわない」という点だけは終始一貫して現在に至っている、とは言えますが。
 1980年代に腎移植が普及し始めますが、結局大きなムーブメントにはなりませんでした。そして、高齢化社会が進行し、医療技術の進歩で人工透析導入後の平均余命はどんどん伸び、結局人工透析を受ける人の数は、当初の予想の数万人を超えてふくれあがります。1983年に「医療費亡国論」が発表され、対策として「供給の制限」「自己負担の引き上げ」「医療保険料を増やす」が提案されました。かつては個人の問題としての「金の切れ目が命の切れ目」でしたが、今はそれが国策となったわけです。
 私個人としては、移植に否定的だった人が、経済ゆえに人工透析にも否定的なのだとしたら、慢性腎不全の人はどうすればいいんだ?とは思いますが。まあ、両方に否定的な人に答えてもらうべき疑問ですが。


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