mixiユーザー(id:235184)

2015年05月18日06:44

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300Mm

 長さの単位は「メートル」だから、それよりはるかに小さなものには「cm」とか「mm」、長いものには「km」という感じで「m」の前に「10の何乗か」の記号をつけます。ところが私にとって不思議なのは、小さい方は「㎛」とか「nm」と系統だって記号がつけられるのに、長い方ではたとえば光速は「秒速30万km」とは言うけれど、「300メガメートル」とか「0.3テラメートル」とはあまり言わないことです。
 もっとも、こう書いてみてやっぱりしっくりはきませんね。やはり光速は30万キロの方が落ちつきます。

【ただいま読書中】『真昼の暗黒』アーサー・ケストラー 著、 中島賢二 訳、 岩波文庫(赤N202-1)、2009年、900円(税別)
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 深夜のノック。制服を着た2人が交互にノックする音はだんだん激しくなり、ドアを叩く手がピストルの台尻にかわります。ドアは破られ、古参党員ルバショフは逮捕されます。「ナンバー・ワン」の写真が飾られた寒々とした部屋で。
 独房に監禁されたルバショフは、壁を叩くことで隣の囚人と「会話」をします。「シャンペングラスにぴったりおさまる乳房」について。そして過去への内省の旅を行います。
 不思議なのは「ナンバー・ワン」と匿名にされた存在の意味です。どう見てもスターリンなのですが、「(個人は間違えるが)党は無謬である」というテーゼの具現としての個人、というへんてこりんな存在であることを強調するための匿名化なのかもしれません。
 本書が執筆されたのは第二次世界大戦直前で、共産党やファシズム、帝国主義と民主主義がお互いの隙をうかがいながらややこしいダンスを踊っていました。その時代にソ連国内での粛清を題材に思弁的な小説を書くのは、とてもリスキーな行為だったはずです。少なくともほとんど誰からも愛されることはなかったでしょう。
 そして審問が始まります。まずは「論理」によるもの。死刑にならない程度に罪を認めれば、それですべてが丸く収まる、しかしあくまで無罪を主張したら、それは為にならないぞ、と取調官は言います。それが効かなければ次は「脅し」。しかしルバショフには「罪」の心当たりがありません。反革命? 反動? この若造め、俺たちが革命を成就させたんだぞ、と。さらに「ナンバー・ワン暗殺計画」。もちろん起訴状には「すべて」が書いてあります。大嘘で細部まできちんと固めた「すべて」が。そして、執拗な審問によってルバショフの抵抗は一つずつ打破され、ルバショフは「罪」を一つずつ認めていきます。さらに延々と続く審問の中で、予審判事はルバショフに「犠牲の羊」として死ぬことを求めます。予審判事の言葉の虚構の壮大さと説得力の豊かさは衝撃的です。そしてルバショフは……
 よく「自分の行為の正当性は、歴史によって証明される」と言う人がいますが、著者は「歴史は良心を持たない」と言ってくれます。うわあ、と私はつぶやいてしまいます。


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