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2019年12月01日21:27

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本棚224『映画で日本を考える』佐藤忠男(中日映画社)

 今日は鎌倉の紅葉ヶ谷(もみじがやつ)を歩いた後、鏑木清方美術館と川喜多映画記念館へ。美術館は「清方と鏡花」展の最終日で、特別に学芸員の方の丁寧な解説を聴け、映画記念館も日本映画と文学の関わりを扱っていて興味深かった。

 数々の洋画の名作を日本に紹介するとともに、国際映画祭を通じて日本映画の魅力を海外に発信した川喜多夫妻は、本書でも取り上げられている。
 本書は、日本文化の「伝統」を伝える映画の多元性、東洋趣味から始まり、文化の壁を超え次第に日本映画が世界に受容されていく過程など、様々な切り口から日本映画が語られる。

 驚いたのは、1899年に日本映画の制作が始まってから、百年ほどの間に3万4千本もの日本映画が作られたということ。黒澤明や小津安二郎、溝口健二といった巨匠の作品は今でもDVDなどで観ることができるけれど、大半の日本映画が時の流れの中で、フィルムも失われ、目録にそのタイトルだけを遺して忘れ去られていった。
 しかし、それらは決して星くずのように儚く虚しいものではないだろう。どの映画も、その時代時代の人たちの心を動かし、希望を与えてきた。家族や恋人、友人と共に同じ感動の時を共有した思い出、独り傷ついた心が映画によって癒やされた思い出ーフィルムもない無機的なタイトルの背後には、こうした無数の幸福の記憶の古層が積み重なっている。著者が映画史のことを、「人びとの喜怒哀楽の歴史」と語るように。

 著者の文章からは、人に対する優しい眼差しが感じられ、心地よい。敗戦後の時代の精神の表れとして木下恵介作品のけなげさ、いじらしさ、純情さに焦点を当てた文章や、高倉健への追悼文などから、その優しさは滲み出ている。

「彼は任侠映画の一時的なブームが去った後、その役柄で築いた風格で、おとなしく善良な庶民の本当の男らしさを演じるという、文字通りの離れ業をやってのけた。「幸福の黄色いハンカチ」「鉄道員(ぽっぽや)」がそれであり、彼は本当に男らしい男が、実は心優しくつつましい庶民でもあり得るという、すてきな人格のありようを示してくれたのである。」
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