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2018年11月02日06:23

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三すくみ

 夜明け前のコンビニ、バイト君が一人で寂しそうに立っています。商品を手にレジに向かうと、私を押しのけるようにおっさんがコーヒーを一つレジのカウンターに乗せました。バイト君がレジ処理をしようとするとおっさんは慌てたように「パンを忘れてた。ちょっと待って」とパンの棚へそそくさと。バイト君はコーヒーを手にしたまま固まっています。で、おっさんは、「これにしようかな、それともこれにしようかな、あ、これにしようかな、それともそれともこっちかな」とこちらはパンの棚の前で固まっています。
 こんな場合、このおっさんは、店員にだけではなくて、レジの前で虚しく待たされている私にも「ごめん、ちょっと待ってて」か「お先にどうぞ」かを言うべきでは?

【ただいま読書中】『アルカトラズの6人 ──脱獄に賭けた男たち』クラーク・ハワード 著、 高橋千尋 訳、 早川書房、1979年、1700円
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 “あれ"から30年後、著者は全米の新聞に広告を出し、“あれ"に関わった人たちの体験談を求めました。その目撃談や当時の記事、記録をもとに再構成されたのが、本書です。
 サンフランシスコ湾に浮かぶ島の刑務所、脱獄不可能と言われたアルカトラズ(「ザ・ロック」)。1946年5月2日はいつもと同じように始まりました。看守の家族宿舎から子供たちはいつものように船に乗ってサンフランシスコの学校へ。看守は(非番の者以外は)いつものように朝食を摂って徒歩で出勤。
 ザ・ロックに収容されているのは、アメリカのどこの刑務所でも安全ではないと見なされた凶悪な犯罪者の中の“選りすぐりの者"ばかりです。彼らがどのような人間でどのような犯罪をしたのか、著者は穏やかな口調で悠々と語ります。口調とは裏腹にその内容は悲惨なものばかりなのですが。
 「公衆の敵ナンバーワン」マシンガン・ケリーはすでに12年間アルカトラズで過ごしていました。その間に彼が目撃した脱獄の企ては9回。6人が殺され、16人が穴蔵へ。2人は行方不明ですが冬の海で凍死したはず。成功は皆無です。しかしその日、また脱獄の企てがひそかに発動していました。首謀者のバーニー・コイは、以前の失敗例はすべて銃器なしだったからだ、と確信していました。だったら、銃器を入手すればよい、と。そして、銃器保管室の構造上の欠陥を見つけていました。
 刑務所の一日は厳しいタイムスケジュールに従って過ぎていきます。そして、脱獄のスケジュールもまた厳しいタイムスケジュールに従っていました。最初は予定通り武器を奪取、看守を人質に。ところが「想定外」の出来ごとが続きます。9人の看守を人質に運動場に出て桟橋へ、そこから便船で本土へ、の予定でしたが、運動場に出る扉が開かないのです。6人の脱獄犯は立てこもってボートを要求します。
 まずは7人の看守が偵察とあわよくば人質奪還のために突撃。しかし、激しい銃撃戦が起き、7人の内、自分の足で戻れたのは2人だけでした。
 他の刑務所からの応援部隊や沿岸警備隊さらに海兵隊も応援にやってきます。「6人対アルカトラズ(本書の原題)」というか「6人対アメリカ」と言った感じです。
 惨劇が起きます。45口径の拳銃を手にして気が大きくなった囚人が、監房に閉じ込められていた看守たちに次々発砲したのです。ふだんの恨みを晴らそうというのか、それとも逃げられないのだったら道連れを少しでも多くしようというのかはわかりません。
 新聞は白熱します。憶測や誇張に満ちた記事が量産されます。しかし現場に実際に言った記者は一人だけ。彼はアルカトラズから戻るとすぐにタイプライターを打ち、真実に満ちた記事を書きます。しかしそれは、数ある新聞記事の中でもっとも地味で目立たないものでした。
 刑務所所長は頑固者で、「監房区画への銃器持ち込み禁止」をこの非常時にも遵守させます。だから仲間を救おうとする看守たちは、丸腰で監房に突入しました(ガンギャラリーや銃器室は監房区画とは切り離されています)。海兵隊は外側からバズーカを撃ち込みますが、頑丈な壁にはへこみしかできません。そこで屋上から天井に電気ドリルで穴を開け、そこから手榴弾を次々放り込みます。本当は硫黄島でのように火炎放射器からの炎をぶち込みたいところですが「あそこにいるのは、おれたちと同じ白人だぞ、軍曹」だそうです。さすが、1946年。
 本書ではほとんどの人物は実名で登場しますが、ただ一人の囚人だけは仮名とされています。それがなぜかは、最後まで読めばわかりますが、彼のそれからの人生が穏やかであったことを私は祈ります。


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