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2018年08月06日06:13

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盗賊用番付

 昭和の昔、税務署は「高額納税者」のリストを各分野ごとに公表していました。「映画スターはどのくらい稼いでいるか」とか「日本で一番の金持ちは誰か」とか下世話な興味を持つ人は喜んでそのリストを“鑑賞"していました。もっとも「納税額」と「収入」とが正比例する、という保証は全然ないんですけどね。いくらでも節税の方法はあるし、個人事務所を作ってそこに自分の収入を入れてそこから自分は月給をもらう、という形などで「個人の納税額」を圧縮する方法もあるから、馬鹿正直に「自分の収入」を「自分のもの」と申告した人のリストでしかなかったのですが。
 そういった下世話な人以外にこのリストを喜んでいたのは、泥棒や詐欺師じゃないか、と私は思っていました。「どこにたっぷり金がありそうか」のリストでもありますから。すると税務署は、犯罪の奨励をしていた、ということに?

【ただいま読書中】『江戸の長者番付 ──殿様から商人、歌舞伎役者に庶民まで』菅野俊輔 著、 青春出版社、2017年、890円(税別)
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 江戸時代には、相撲以外にもグルメ、名物、美人など様々なものが「番付」として出版されていました。ならば様々な史料を駆使して「長者番付」を作ってみよう、とする面白い試みの本です。
 江戸時代に流通していた「貨幣」は、金・銀・銭ですが、それぞれが両替可能です。また貨幣価値は江戸時代を通じて少しずつ変化しています。それらも勘案してざっくりと数字が出されています。
 まずは、将軍吉宗の「年収」は1294億円。ところが加賀前田家は1134億円。意外に、というと前田家に失礼かもしれませんが、良い勝負となっています。町奉行の大岡越前(大岡忠相)の町奉行としての知行は3092石。手もとに入るのはその35%の1372石。それを一石=金一両で換算すると、2億2226万円。火付盗賊改の長谷川平蔵は、家禄が400石、就任した先手頭は1500石、その兼任の火付盗賊改の手当は60人扶持。換算したら1億230万円だそうです。ただ、大岡越前は公邸で仕事をしますが、鬼平は私邸が役宅で配下の与力10人・同心30人の面倒も見なければなりません。お金が全然足りない気がします。
 「金持ちの長者番付」は江戸では作られていました。「新板大江戸持○長者鑑」ですが、「○」は「丸(お金の隠語)」ですから「持○」は「お金をたくさん持っている」の意味となります。番付の「大関」「関脇」「小結」などに金持ちが並んでいますが、注目するべきは番付の中央に書かれている「行司」「世話人」「勧進元」の9人で、ここに書かれるのは「別格の豪商」なのだそうです。特に大書されている勧進元の「越後屋」「白木屋」はとんでもない豪商。史料が残る三井越後屋は、年間利益が17億円以上だそうです。
 「千両役者」ということばがありますが、実際に「年俸千両」だった歌舞伎役者は文化12年(1815)には7人いました。1億円以上の収入です。
 大奥の女中、花魁、医者、僧侶などが次々登場します。ただ、杉田玄白が小浜藩の藩医で400石だから2268万円とされていますが、彼は「オランダ渡りの梅毒特効薬(正体は水銀)」で私的に大儲けしていますから、収入はこんなものではなかったはずです。
 「宵越しの金は持たねえ」が江戸っ子の心意気だそうですが、それを言い換えたら「その日暮らし」というわけで、お金の点ではぎりぎりの生活をしていたようです。ただそれも楽しんでしまうのが江戸っ子、というか、楽しまなければ生きてはいけないでしょう。それが人間として好ましい生活かどうかはわかりませんが。


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