mixiユーザー(id:235184)

2017年06月09日06:50

439 view

メキシコの壁

 西部劇、特にマカロニウエスタンでは、メキシコ人は「インディアン」に次ぐやられ役です。トランプさんもメキシコ人を“やっつける”ことで自分の人気を高めていました。しかしかつて「アメリカの西部」はメキシコ支配下でした。つまりメキシコはかつては「偉大な国」だったけれど、それをアメリカがどんどん奪い取っていったわけです。ではメキシコ人がトランプさんに倣って「メキシコを再び偉大に」「メキシコファースト」などと言い出したら、トランプさんは、困りません?

【ただいま読書中】『主君「押込」の構造 ──近世大名と家臣団』笠屋和比古 著、 平凡社(平凡社選書119)、1988年、2000円
https://www.amazon.co.jp/gp/product/4582841198/ref=as_li_tl?ie=UTF8&camp=247&creative=1211&creativeASIN=4582841198&linkCode=as2&tag=m0kada-22&linkId=0df7cf808954c04cd5081cc0353352b2
 本書は2006年に講談社学術文庫からも出ています。
 主君押込と言えば、時代劇だったら悪家老によるお家乗っ取りと言いたくなりますが、実際には主君と家臣団の対立がベースにあって、家臣の方は「主君」よりは「お家」に忠義を尽くしたい場合、主君を押込て強制的に隠居させる、というやり方を採った場合もあるでしょう。
 主君と家臣団の対立は、基本的には「どちらが政治の実権を握るか」の争いです。主君は専制を敷くために自分が自由に使える官僚組織を必要とします。対して家臣団は強固な家格秩序を頼りとします。
 阿波蜂須賀家第十代当主重喜は、この専制確立に見事に成功しました。しかし敗れた家臣団は幕府に「押込隠居」を認めてくれ、と訴え出、幕府は「押込」ではなくて重喜を強制的に隠居させてしまいます。幕府が望む「体制秩序」に「殿様の専制」はふさわしくないという判断だったようです。著者はこの「幕府の態度」に強く注目しています。
 「押込隠居」の実例として、宝暦年間の大名・旗本の3例が取り上げられます。ことの性質上、公的な書類は作りにくいものばかりですが、著者はできるだけ一次資料(関係者の日記や手紙、裁判記録など)をもとに事件を再構築しています。著者が注目するのは、幕府が「押込」そのものを糾弾はしないことです。せいぜい幽閉のやり口がまずいことを非難する程度。それどころか幽閉された主君を救おうとした“忠義の家臣”に死罪を申しつけています。
 「主君押込」の“ルーツ”として著者は石見国浜田の「古田騒動」や仙台伊達家の「伊達騒動」に注目しています。家光の時代には幕府は「主君側」に無条件でついていましたが、やがて幕府は、自らが主導する形で問題を起こした殿様を隠居させることによって、本来はあってはならない「家臣・重臣団の主君廃立運動」が存在することとその正統性を公認してしまいました。
 元禄年間の「丸岡騒動」や「秋田騒動」などなど、様々な「お家騒動」が列挙され、江戸時代の封建制度はけっこうガタピシ言いながら動いていたことがわかります。
 有名な「尾張徳川宗春隠居事件」では、記録には「押込」はありませんが、宗春が参勤交代のために名古屋を去って三箇月後に尾張で家老たちが“クーデター”を起こし、それから七箇月後に幕府から処罰申し渡しがあるまで、宗春の動静は一切記録に表れません。そのことから「主君押込」があったものと著者は推定しています。
 「主君押込」の「動機」は主に3つ(またはそれらの混合)、「主君の不行跡」「主君の御家横領行為(養子の場合に多く起きます)」「政治路線の対立」です。
 「主君押込」の政治的決断は重臣たちが行っています。しかしそれを実行するためには実力部隊が必要ですから、目付や物頭を巻き込む必要があります。逆に言えば、いくら家老たちが一致団結しても、主君が目付以下をしっかり押さえていたら、「押込」は成立しません。家老たちは大変です。実行部隊をこっそり押さえるだけではなくて、“不忠者”にならないために、親類(なるべく主家にあたる)大名や幕府の内意という「権威」も取り付けなければなりません。
 「主君押込」後は、藩によって様々です。押し込められた主君が暗殺されたり死ぬまで座敷牢に幽閉、という悲惨な例もありますが(その場合には、正統な後継者である実子も殺されます。実子を主君にしたら「敵討ち」で家臣が殺される可能性が出てきますので)、なんと「復権(また主君に復活(「再出勤」と呼ばれたそうです)」した例もあります。双方ともばつが悪い思いをしたのではないでしょうか?
 武家にとって大切なのは「個人」ではなくて「御家」という「制度」をいかに持続するか、だったのでしょう。だけど「御家を大切に思う主体」は「個人」でないとしたら、一体誰だったんでしょうねえ。


0 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2017年06月>
    123
45678910
11121314151617
18192021222324
252627282930