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2016年10月22日15:03

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犬と猫のミスマッチ

 「負け」も「化け」もよく似た語感なのに、「負け猫」とか「化け犬」とはあまり言いませんね。

【ただいま読書中】『千年前の人類を襲った大温暖化 ──文明を崩壊させた気候大変動』ブライアン・フェイガン 著、 東郷えりか 訳、 河出書房新社、2008年、2400円(税別)
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 半世紀前、イギリスの気象学者ヒューバート・ラムは様々な手がかりを集めることで「西暦800年〜1200年は温暖化の時代だった」ことを突き止めました。その後、樹木の年輪や雪氷コアの研究で、ラムの主張の正しさが追認されています(さらにマンなどの研究で、産業革命以後の気温上昇が中世の温暖期を上回っていることがわかったのは、別のお話です)。
 中世の温暖化は、ヨーロッパには好機でした。耕作適地はすでに開発され尽くしていましたが、ヨーロッパ全土はほとんどが森林に覆われていたため、開墾熱がヨーロッパを支配します。人口は増え、増えた人口を食わせるためにさらに開墾が進みます。1100〜1350年でヨーロッパの森林の半分以上が伐採されました。本来は耕地には適していない土地でも、好天に恵まれる夏と穏やかな秋によって集約農業が盛んに行われます。また、海ではニシンの豊漁が続き、これも貴重な蛋白源となりました。
 中世の温暖化は中央アジアのステップに干ばつをもたらしました。チンギス・ハーンが大遠征をして版図を広げた原因の一つに著者はこの干ばつを挙げています。チンギスの孫バトゥはポーランドとハンガリーを征服しオーストリアに侵入したところでオゴディ・ハーン死去、大ハーン選出に備えてオゴディは軍を撤退させました。それと時を同じくして、ステップに寒冷で湿潤な気候が戻り、牧草地が回復しました。オゴディがヨーロッパに戻らなかったのは、それも原因の一つかもしれません。牧草地が豊富にあって南方との交易が盛んなら、征服への野心は薄れてしまうでしょうから。
 本書で面白かったのは、地球規模での空気や海水の流れの描写に文明の盛衰が重ねられ、さらに突然ミクロの「人びとの生活」が具体的に描写されるシーンが挟み込まれる所です。さらに著者の視点は、大陸から大陸へ、ぐるりと地球を一周します。
 温暖な数世紀、ユーラシアとサハラは干ばつに苦しめられましたが、北極は恵みの季節を謳歌しました。海はあまり氷結せず、スカンディナヴィアの民は人口増加の圧力によって、ロングシップでの遠征を繰り返しました。入植は、アイスランド、グリーンランド、そしてついに“新大陸”のラプラドルに広がります。
 北アメリカの西部も大干魃に襲われました。その影響をもろに受けたのが、プエブロ族でした。彼らの生活様式は乾燥に弱く、チャコ・キャニオンに建てられていた立派な「プエブロ(アパート式集合住宅)」を見捨てて移動することになってしまいました。そして、太平洋の大気と海水の相互作用はプエブロ族だけではなくて中央アメリカとアンデス地方の高度な文明にも深刻な影響(混乱と食糧不足)をもたらします。
 マヤ文明は、多様な土地環境をベースとし、細心の水管理によってモザイクを組み合わせたような文明形式を保っていました。それを9世紀初頭から始まった干ばつが襲い、大打撃を与えました。1100年以降、気候は湿潤となりましたが、マヤは復活しませんでした。
 干ばつは南アメリカも襲っていました。「エルニーニョ」は地球の他の地域にも影響を与えますが、ペルーでは「主役級」の働きをしています。エルニーニョはペルーの海岸地域に豪雨をもたらして灌漑施設を破壊し、カタクチイワシを冷たい海域に移動させて、このダブルパンチで人びとを飢えさせます。ペルーのチムー王国は、高原からやってきた新しい勢力(インカ)に征服されることになりました。
 生物としてのヒトは進化の産物ですが、文明や文化はヒトと環境の相互作用によって生まれます。本書ではその「環境」を古気象学の観点から読み解いています。「地球というシステム」から見ると「歴史」はまた別の側面を見せてくれます。またこの読解によって、現在私たちが直面している「地球温暖化」の理解も進みます。少なくとも「地球というシステム」の「自然変動」とそれに私たちが加味している「人為的な変動」とを理解すれば(少なくともそのようなものが存在していることを認めれば)「未来」についてのプランを考えることも可能になります。
 本書は「千年前のできごと」を扱っていますが、実は「人類の未来を述べる本」でした。


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