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2016年10月16日06:43

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アパッチ

 「アパッチ」と言えば、私にとってはむかしむかしの西部劇での“悪役”です。日本の時代劇で「であえであえ」でわらわらと集まって、主人公にばったばったと斬られる人たちのように、西部劇で白人にばんばん打ち殺されるための役柄。もっともそれは映画「ソルジャー・ブルー」以降はがらっと変わりましたけれど。
 「アパッチ族」と言えば、私にとっては小松左京の「日本アパッチ族」(1964年)です。だけど「日本三文オペラ」(1959年)にすでに「日本(というか大阪)のアパッチ族」が登場していました。もっとも敗戦後に大阪の砲兵工廠跡で鉄くず泥棒をやっていた人たちを「アパッチ族」と呼んでいた、という“史実”があるので、これは「誰が最初」という問題にはできそうもありません。

【ただいま読書中】『日本三文オペラ』開高健 著、 角川書店(角川文庫)、1961年(78年10刷)、260円
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 フクスケという男が食い詰めて「アパッチ族」に参加します。闇夜の中、アパッチ族が出撃するのは「杉山鉱山」。大阪市東区(現在の中央区)杉山町にもとあった陸軍砲兵工廠の跡地です。当時日本最大の工廠が徹底的に破壊されたのは、昭和20年8月14日、白昼堂々の大空襲によってでした。工廠は35万坪の廃墟となりましたが、アパッチ族から見たらそこは宝の山でした。膨大な煉瓦とコンクリートの山はともかく、それに混じって「鉄」が大量に存在していたのです。一貫が60円で売れるお宝が。
 アパッチ族に拾われたフクスケが主に食べるのは、モツ丼やトンチャン(牛の臓物の鍋)です。「雑巾」と呼ばれる牛の胃袋は硬くて歯が立ちません。「族」を構成するメンバーの国籍も、朝鮮・日本・沖縄とばらばらです(というか、「沖縄」は日本とは別の「国」だったんですね)。中核部隊は筋骨隆々の体力自慢たちですが、「ザコ」とまとめて呼ばれる老人・女性・子ども・障害者などもそれぞれの役割を果たしています。
 フクスケは初心者ですから、親分のキムは親切にも仕事のことを詳しく教えてくれます。それによって私もアパッチ族について詳しくなります。もっとも、話はあっちに行ったりこっちに行ったり、本来は単純な話のはずがやたらと必要以上にややこしくなっているのですが。
 あまりのアパッチ族の“活躍”に、ついに警察が本腰を入れはじめ、アパッチ族は食い詰めてしまいます。そして……
 『三文オペラ』はたしかに形式は「オペラ」(またはオペレッタ、またはミュージカル)でしたし、登場する人たちは「三文」(貧民)でした。ところが『日本三文オペラ』は、「日本」の「三文」ですが「オペラ」が私には見つかりません。オペラよりは西部劇の形を借りた方が、もっとすっきりしたのではないか、なんてことを思いながら、「戦後の日本の一場面」の薄暗さを堪能できました。


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