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2015年11月18日06:55

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英仏海峡の深さ

 先日読んだ『世界恐慌』(ライアカット・アハメド)では、「英仏の対立」が「世界経済」を泥沼に引きずりこんだ一因であるとされていました。しかし「イギリス」と一言で言っても、4つの王国の連合体だし、そもそも英仏海峡をまたがって領地があった場合もあります。ヨーロッパの王室は親戚縁戚が複雑な関係。単純に「イギリス」「フランス」とはまとめられないのではないか、なんて思うのですが、それを「まとめられる」としたのはナポレオンの“功績”でしょうか。

【ただいま読書中】『中世英仏関係史 1066-1500 ──ノルマン征服から百年戦争終結まで』朝治啓三・渡辺節夫・加藤玄 編著、 創元社、2012年、2800円(税別)
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 ヴァイキングの襲来により英仏では北欧との強い繋がりが生じました。ヴァイキングの襲来に対抗するためにイングランドでは統一が進みますが、ヴァイキングもやがて北東イングランドに定住するようになりました。フランスではヴァイキングの定住地のノルマンディ地方が北欧との繋がりを保ったままフランスの一部として強力な領邦として成長しました。1066年「ノルマン征服」、ノルマンディ公ギョーム二世がイングランドを征服し、話はややこしくなります。「イングランド+ノルマンディ」のアングロ・ノルマン王国は、フランスで最強の領邦ですが、フランス王が「主君」であることは維持されていました。フランス王も臣下のノルマンディ公がイングランド王であることに対応しなければなりません。イングランドの宮廷は大陸出身者で占められ、イングランドは“フランス化”します。イングランド王国とノルマンディの両方に領地を持つ家臣たちにもそれぞれの事情が生じます。かくして、ノルマンディ公(イングランド王)、フランス王、両方の貴族たちが複雑に絡み合っての陰謀や戦争が相次ぐことに。いやもう本当にややこしい動きですが、1154年にアンリ・プランタジュネ(ヘンリ・プランタジネット、のちのヘンリ二世)が、大陸(現在のフランスの西半分)に加えてアングロ・ノルマン王国を手に入れてアンジュー帝国が成立します。フランス王から見たら、あまりに強大な“臣下”は目障りです。だからと言って正面切っての対決は困難。そこでアンジュー帝国の王子たちの内紛に乗じる手段を採用します。王様をやるのも大変です。
 百年戦争前夜、フランス国王は力をつけ、アンジュー帝国を圧迫します。お家騒動、内乱、戦争……飽きもせずに人類は似たことをやり続けます。取りあえずパリ条約(1303年)で西欧に「平和」がもたらされますが、それはトラブルを先送りしただけでした。フランス王のカペー家は、対フランドル戦争を遂行中で二正面作戦をする余裕はなく、プランタジネット家は対スコットランドで忙しかった、という事情が両家の間に「平和」をもたらしただけだったのです。フランドル地方には神聖ローマ帝国領もありましたが、政治的にはフランス王が支配、しかし特産の毛織物を通じて経済的にはイングランドとの結び付きが強い、つまり、フランドルの貴族はフランス王と、諸都市はイングランドと結びつくわけ。「何とかしなくては」とフランス王の視線がイングランドに向くのは当然でしょう。
 百年戦争の“当事者”は、プランタジネット家とヴァロワ家ですが、話がややこしくなるのは、双方がそれぞれ「国際関係」を利用したからです。ブルターニュなどの自律的な諸侯領も「国家」として数えると、百年戦争には30ヶ国が参加したことになるそうです。
 エドワード三世は、母方の血を理由に「フランス王」の称号を要求、海戦はイングランドの圧勝で、以後英仏海峡はイングランドのものになります。イングランド軍は大陸に上陸、有名な長弓兵が活躍しますが、そこに黒死病が。30年間の休戦協定やジャンヌ・ダルクの登場。ヘンリ六世はパリでイングランド人司教の手で戴冠しましたが、シャルル七世は(歴代フランス国王に倣って)ランスで戴冠して自分の正当性を主張しています。こういった「正当性」も重要なんですよね。最終的にフランス国王は(カレー以外の)フランス全土を掌握することになります。しかしきちんとした休戦協定が結ばれたわけではなく、イングランドは内紛が収まるたびにフランスにちょっかいを出そうとし、フランスは防備を固めると同時にイングランドの内紛をあおろうとします。お互い「嫌な隣人」です。
 これがほんの数百年前、日本だったら室町時代の話です。そして百年戦争が“終わって”も、戦争状態自体が終了したわけではありません。ずっと相手を“敵視”するのが続くのですから、難儀な話です。これが20世紀の世界大戦の下地にもなっているのでしょう。これで「EU」という発想がよくも生まれたものだ、と私は感心します。域内あるいはグローバル経済は“接着剤”としてはとてもとても優秀なのでしょうね。


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