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2015年07月09日07:01

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戦争のルール

 安保法制をめぐる国会議論を見ていると「戦争にはルールがある(そして皆がそれを守る)」が前提となっているように思えます。しかし、“反則”があった場合、それを指摘したり罰したりする“審判”が戦争の現場にいましたっけ?

【ただいま読書中】『アフガン、たった一人の生還』マーカス・ラトレル、パトリック・ロビンソン 著、 高月園子 訳、 亜紀書房、2009年、2500円(税別)
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 著者は小さい時には父親にびしびし鍛えられ、ティーンエイジャーになると近くに住む元特殊部隊員の“クラス”で特殊部隊入隊を目指す“レッスン”を受けます。テキサスにはそのような生活があるんですね。
 著者はイラクで大量破壊兵器を探していました。テロリストと戦う最良の手段は自分もテロリストのように戦うことでした。それと同時に著者は交戦規則(敵に撃たれるまで撃ってはならない)に深刻な苛立ちも感じます。規則を守れば敵にひどい目に遭わされ、規則を守らなければ味方にひどい目に遭わされるのですから。どうして「愛国者」の自分が自分の命を賭けて戦っているのに、味方の弁護士やマスコミにたたかれなくちゃいけないんだ、と。
 そこで時間は過去に戻ります。著者は自分が実際に受けた訓練を(海軍が許可した範囲内で)実に詳しく描きます。心身を限界まで追い込む厳しい訓練です。合格した者だけに許される楽観的な筆致ですが、それでも読むだけでこちらは肉体的な苦痛を感じます。こういった訓練については他の本でも読みましたが、本書に特徴的なのは「教官の狙い」についても著者が観察・推測していることです。著者は、命令通りにだけ動く兵士ではなくて、適地で孤立したとしても敵の意図を見抜いて単独で動ける優秀な兵士であることがここからもわかります。
 そして、著者を含む米国海軍SEAL部隊はアフガニスタンに派遣されます。山岳地帯でタリバンやアルカイーダなどの「悪者」を殺すためです。アフガニスタン全土がタリバンに支配されているわけではありません。山岳地帯は山岳民の土地で、彼らはかつてソ連軍にも屈しなかった強者です。タリバンが山岳地帯で活動したり新兵を募集するためには、山岳民族と上手くやる必要があります。そういえばヴィクトリア時代のアフガン戦争ではイギリスもアフガニスタンでひどい目に遭っていましたっけ。
 アフガニスタンの部族民は、モンゴル、ペルシャ、英国、ソ連とずっと“侵略者”と戦い続けてきました。もしかして現代のアフガニスタン紛争は「愛国者」と「愛国者」の戦いになっているのでしょうか。そこで文明人と野蛮人あるいは正義と悪を分けるものがあるとしたら、「交戦規則」が存在する/それを守っている、という一点なのかもしれません。
 武装集団のリーダーのシャーマックを捕獲(あるいは殺害)するための作戦にシールの4人が派遣されます。シャーマックが潜んでいるという情報を得て、その村を山の上から身を隠して監視する任務です。ところが偶然山羊飼いに隊は見つかってしまったのです。(英国SAS部隊がイラクでやはり山羊飼いに見つかってひどい目に遭った、は『ブラヴォー・ツー・ゼロ』(アンディ・マクナブ)に書いてありましたね。英米の特殊部隊と山羊飼いは相性が悪いのでしょうか)
 明らかに非武装の民間人を殺害するべきか、著者らは迷います。軍事的には殺すべきです。しかし人間としては? ついに彼らは山羊飼いを釈放し、山羊飼いは一直線に武装集団の所へ。4人はすぐに潜伏場所を変えますが、すぐに数十人(おそらく100人以上)の武装集団に襲われます。仲間は次々倒れ、著者は一人大怪我をしながら絶壁を滑落、そこで非タリバンの村人に出会います。
 アフガニスタンのバシュトゥーン族の文化には「ロクハイ・ラルカワル」と呼ばれる習慣があります。もし誰かを助ける、と決めたら、村全体で命を賭してその人を守る、というものです。著者らが自分の命がかかっていることがわかっているのに山羊飼いを殺さないことを決めたのと同様、バシュトゥーン族のサブライ村の住民は、自分たちの命がかかっていることをわかっていて、傷だらけの米軍人を助けるかどうかを決定したのです。タリバンは著者を発見し家に押し入って暴力を振るいます。しかし「ロクハイ」を侵すことはできません。殺したり無理矢理連れ出すことは部族の掟で許されないのです。タリバンは村を包囲し、チャンスを待ちます。そこに“救助隊”が。
 著者の愛国心のベースには、家族への愛とテキサス州への愛があることがよくわかります。ブッシュ大統領(当時)にもほぼ無条件の忠誠心を捧げています。ところで、アメリカ大統領がテキサス以外の出身で民主党で、連邦とテキサス州とが対立したとしたら、彼の愛国心はどのように働くのだろう、とちょっと気にはなりました。意地悪な設定ですけどね。


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