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2015年06月01日06:53

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二者択一?

 「戦後レジームからの脱却」「戦争法案」からは、「正義と平和の二者択一だったら、正義の方を選ぶべきだ」という主張が見える気がします。でも、それ以外の選択肢は本当に存在しませんか?

【ただいま読書中】『独裁者の城塞 ──新しい太陽の書4』ジーン・ウルフ 著、 岡部宏之 訳、 早川書房(ハヤカワ文庫SF763)、1988年、560円
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 よせば良いのに、セヴェリアンはまたも「命(死)」をいじくってしまいました。死んだ兵士を蘇生させてしまったのです。その代償ではありませんが、兵士を連れて行った避病院でセヴェリアンは熱病で倒れてしまいます。逆に、軍隊で一杯となった道を何事もなく通り抜けてセヴェリアンが避病院に無事たどり着くために、同行者としての兵士が必要だったのかもしれません。
 必ずしも世間の評価とは違うかもしれませんが、私には非常に印象的な人物が登場します。「承認されたテキストだけをしゃべる」アスキア人です。ところがそれでも彼らは「自分の意思」を伝えることができるのです。それは、選択されるテキストの中身だけではなくて、語る時の口調によるのですが、「コミュニケーションの本質」について、私はたっぷり考えたくなってしまいました。
 病院の中でも戦いが起きます。ただし「物語による戦い」……二人の病者がそれぞれ自作の物語を語って優れた物語を語った方が女性の病者を獲得するのです。変わったプロポーズ合戦ではありますが、女性がそれを望んだのだから仕方ありません。セヴェリアンはその審判を務めることになります。しかし、その決着がつく前に、避病院は襲われ、セヴェリアンは不正規兵の群れに参加することになります。「法の執行者」として訓練され生活をしていたがゆえにこれまであれほど避けていた戦争(無法状態)に、ついに取り込まれてしまったセヴェリアン。
 第三巻でセヴェリアンはすべてを失ったかのように感じましたが、まだ「鉤爪」が残されていました。しかし本巻でついにそれもセヴェリアンは手放します。完全に体一つと言って良い状態です。しかし、何かを失うたびに読者には「解決」がもたらされます。これまで張り巡らされていた伏線が一つ一つ回収されていくのです。それによってこの「惑星ウールス」には、「過去」だけではなくて「遙かな未来」も存在することがわかりますし、この話が始まってからのセヴェリアンの旅での不思議の数々にも一応の「回答」が示されます。ただ、これまで散々仄めかされていたセヴェリアンの出自や彼のこれからの運命については、セヴェリアンはなかなかきちんと語ってくれません。自分の語りが物語を追い越してしまわないように注意しているかのように。
 そしてついにセヴェリアンは「帰還」します。そういえば、都から追放された時にセヴェリアンはある「大切なもの」を置き去りにしていました。てっきりそれは持っていくと私は思っていたのですが。それを巻末でついにセヴェリアンは“回収”します。そして、自分の出自についても……って、このあたりで私の頭はくらくらしてしまいます。
 セヴェリアンは饒舌に語っていますが、あくまで「彼の視点」からの物語ですので、それが「客観的に正しい」かどうかの保証は一切ありません。しかもセヴェリアンが語り残したり、気を失っていたりすることもあるし、彼がじっと見つめていても時間が勝手にジャンプしたりするものですから、私は「自分の解釈」が“正しいもの”かどうか、どうしても確信が持てません。
 “現実世界”でも、私たちはそのすべてを把握できているわけではありませんから、仕方ないのではありますが。
 そうそう、この世界では月は緑色なのですが、その理由について、セヴェリアンの説明では私は納得できていません。何か謎がありそうです。知りたいなあ。
 ともかくすごい物語です。SFとかファンタジーとかのジャンルに縛られない、「20世紀の神話」と言っても良いものです。未読の方はぜひ。既読の方も、絶対読み残しがあるはずですから、ぜひ再読を。


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