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2015年04月06日07:18

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小説のバリエーション

 同じ詩にいろんな作曲家が曲をつけた、というので代表的なのはゲーテの「魔王」ですが、そんな感じで小説でも「同じ時代、同じ登場人物で、違う小説家が同時に作品を書いた」なんて作品集があったら楽しそうです。音楽とは違って小説の場合「あとから書く方に有利不利がある」ことになりそうですから(とっておきのネタを使われてしまうかもしれませんし、逆にもっと面白い展開にできるかもしれません)、そういった有利不利をなくすために「同時に書く」でやってみたら読者としてはとっても面白そうです。

【ただいま読書中】『梟の城』司馬遼太郎 著、 講談社、1959年、300円
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 天正の伊賀の大乱で、「伊賀者」は織田軍によって皆殺しにされました。しかしその殺戮の罠を逃れた者たちが潜伏をしていました。彼らの目的は、復讐。しかしその復讐は、光秀によってされてしまったのです。
 生き残った伊賀者のひとり重蔵は、秀吉暗殺の依頼を受けます。依頼主は今井宗久。信長には重用されたが秀吉には軽く扱われていることが関係しているのでしょうが、重蔵はそこをあまり深く追求しようとはしません。ただ、家康と宗久が結んだ可能性は考えます。そこに、伊賀を捨てて侍として生きようとする風間五平と、宗久の養女と紹介された小萩、五平の許嫁の木さるという2人の女忍者が絡みます。
 太平の世には、忍者が住む場所はありません。だから自分たちの働き場所を求めて、忍者たちは都の闇の中を暗躍します。忍者の技は夜盗にはもってこいなのです。
 昔懐かしい連載小説の雰囲気が濃厚です。ストーリーは淡々と進行するのですが、登場人物たちは立ち止まり脇道に行き本心を明かさず、読者の目の前を行ったり来たりします。蛇の生殺しではありませんが、もうちょっとちゃきちゃきと話を進めてくれ、と私は言いたくなります。年を取って短気になっているのでしょう。
 私の言葉が聞こえたわけではないでしょうが、緩急の「急」がやってきます。都を騒がせる伊賀忍者の集団を狩る、甲賀忍者団の登場です。個人技の伊賀に対してチームプレイの甲賀が対比されます。そして忍者同士の戦いが。ここで著者の腕は冴えを見せます。武士の対決とは違って、忍者は怯えを隠しません。平気で逃げます。使えるものは何でも使います。それが対決場面の「リアルさ」を増します。
 しかし「大名屋敷への夜盗」「太閤暗殺の試み」「聚楽第の屋根上での対決」などと並べられると私は当然「石川五右衛門」を思います。しかし本書に五右衛門が登場するのは、物語が終わろうとする寸前です。もちろん伏線はちゃんと張られていたのですが、それでも意外な登場でした。
 ぱっと見で「山田風太郎になりきれなかった司馬遼太郎」といった感じの本です。それでもとても楽しめましたが。


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