3日に行われたアメリカの中間選挙で、トランプの共和党は予想外の歴史的大敗を喫した。世論調査の事前予測では、下院は民主党が勝利するもののその差は大きくはなく上院は拮抗、とされていた。
◎94年ぶりの上院選勝利のカンザス州
しかし蓋を開ければ、共和党は完膚なき大敗だった。まだ議席はすべて確定していないが、民主は下院で共和に大差をつけ、上院でも10議席以上の差をつけて過半数を確保した。
激戦と言われた8州でアラスカのみ当確未決定だが、残りの7州はすべて民主党が獲得した。まさに地滑り的勝利である。
例えば共和党の強固な地盤とされた中西部カンザス州で民主党のアダム・ハミルトン氏が勝利し、94年ぶりとなる民主党の上院獲得となった。さらに1994年以来、知事選・上院選で民主候補が1度も勝利していなかったテキサス州でも、ヒスパニック系のジェームズ・タラリコ氏(写真)が上院の議席を奪った。
ただ後述するが、民主党ブームの中で好ましくない候補も共和党を破った。急進左派でイスラム教徒のアブドゥル・エルサイードだ(写真=イスラム教徒らしく顎髭を蓄えている)。史上初めてのイスラム教徒の上院議員となる。
◎驚異的番狂わせのサウスカロライナ州
特にサウスカロライナ州では、驚異的な番狂わせが起こった。激戦州に数えられることもなく、この28年負け無しだった共和党の現職を、民主党のアニー・アンドリュース氏(写真)が破ったのだ。同州は、24年の大統領選でトランプが民主のハリス氏に18ポイント差もの大差をつけた州でもある。上院議員の適性に疑問符をつけられていた世襲候補を擁立したのが裏目となった。
さらにポスト・トランプの有力候補の1人に数えられる現・副大統領のバンスが副大統領就任に伴い、知事から後釜に指名されて上院議員に就いていた現職が、民主の元職シェロッド・ブラウン氏(写真)の巻き返しで敗れた。何度も応援に訪れたバンスには痛手で、次期大統領候補指名に大きな味噌を付けた。
◎反イスラエル、急進左派のムスリム上院議員の初登場
さて、前記の新たに民主から上院議員に当選したアブドゥル・エルサイードについてだ。名前から推定できるように、両親はエジプトから移民だ。そしてイスラム教徒である。前掲写真でも分かるが、ムスリムらしく顎髭を蓄えている。
したがって主張は、反イスラエル、反ユダヤだ。イスラエルへの軍事支援停止と武器禁輸を求めている。この主張は、同じ民主党内でも際だって異色だ。定かではないが、共和党からはイスラム原理主義テロリストのムスリム同胞団とのつながりを批判された。だからだろう、選挙の直前の11月1日、同州の民主党連邦下院議員ヘイリー・スティーブンス氏は同じ民主党のエルサイードへの支持を撤回し、対立する共和党候補への支持を表明するという反乱があった。
また内政では急進左派らしく、 国民皆保険の導入、富裕層への増税、AI企業の国有化など、社会主義色の濃い主張をしている。アメリカの強さを挫きかねないこうした主張は、6年後に厳しい審判を受けるだろう。
◎トランプに立ちはだかる下院の大統領弾劾訴追
大敗した共和党のてこ入れに大統領職をそっちのけにして全米を駆け回ったトランプにとって、新議員が就く来年1月以降は厳しい局面に立たされる。
与党の提案する法案、重要政府人事などは軒並み難航するだろう。トランプが最も警戒するのは、自身と親族の金銭疑惑などでの下院による大統領弾劾訴追だ。1期目でトランプは2回も弾劾訴追されている。
ただ弾劾に至るには、上院の3分の2の賛成が必要で、民主党はそれほどの議席を得ていないから、弾劾までにはならいなのは確実だが、その度に行動が縛られ、面目が潰れる。
そのため議会をあてにせず、大統領令を乱発して政策を遂行しようとするだろう。
◎国際主義、民主主義に背を向けたトランプへの厳しい批判
最も警戒すべきは、大統領の専権である外交に注力し、そのあまりレガシー作りで、とかく好意を隠さない専制的独裁者の支配するテロ国家ロシア、スターリニスト中国、北朝鮮ならず者集団ととんでもないディールをする恐れだ。
ICC(国際刑事裁判所)への制裁に象徴される国際主義への嫌悪、NATOや国連気候変動枠組条約、自由貿易への敵意など、トランプの壊したアメリカへの諸国民の敬意の念をこれから2年間でさらにめちゃめちゃにすることだけは避けたい。アメリカ民主主義への信頼の回復は、2年後の次期大統領選に待ちたい。
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