ベンチには飲みかけのお茶が二本あり秋の静けさだけ残された #短歌
フローリングに落ちた埃のきらめきを指先でそっとすくいとる朝 #短歌
傘を忘れたふりをしてまたあなたの歩幅に合わせる夕暮れの街 #短歌
透明な嘘にくるまれて目を閉じる夜のプールに浮かぶ月影 #短歌
戦争反対という文字の冷たさを手のひらにのせてお風呂を沸かす #短歌
からだぜんぶがもう文字になってしまうくらいに大きい君の声 #短歌
さみしさは小さな文字を読むように今日のわたしをやさしくめくる #短歌
立ち止まるその一拍を抱きしめる 読まない本も今日の味方だ #短歌
送風の匂いをまとい引き返す買わない本がいちばん軽い #短歌
こく水たまり一つ飛び越える時に手で掲げてしまう不穏なプラカード #短歌
紙の舟浮かべるように1冊を抱えて街の水面を歩く #短歌
あおぞらに戻る途中であきらめてそっと窓辺に椅子を引く午後 #短歌
吊り革の輪だけが同じ形してみんな別々の夜を待ってる #短歌
すれ違う影にうつむく白亜紀のひかりのなかにひそむつづきを #短歌
冷蔵庫のなかの灯りが消えるとき孤独のなかに星屑を見る #短歌
倒れない栞ひとつを胸に挿し読みかけの空ひらいて帰る #短歌
えらそうに直立二足歩行してスーパーの半額を待つ午後8時 #短歌
今日もまた何者にもなれぬままねぎを小脇に帰る夕暮れ #短歌
足の裏ちゃんと地面にあったんだ おかえりなさいと靴が笑った #短歌
目次だけひらいて閉じた古本のぬくもりをまだ分からずにいる人 #短歌
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