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2026年10月25日17:34

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宇治十帖つづきは蓮の台(うてな)にて

 10月25日日曜日、台風だか寒冷前線の影響でほぼ終日雨。
 2週間前に届いたお誘いの手紙で、ようやく返信する気になった。それは出版社のシャチョーで、横浜・馬車道のライブは椅子で行われるクリスマス前夜祭のようなイベント。
 こういう誘いにはよほどのことがない限り応じる主義ゆえすぐにハガキで返信するつもりだったのにのびのびになってしまった。
 正午、きれいなデザインのはがきをパソコンでつくって、文面をしたためた。 
 投函がてら、そして散歩の歩数稼ぎ目的で出掛けた。
 投函後、郵便局に隣接している生涯学習センターに入館し、地下の市民ギャラリーで写真展が開催されていたので、入ってみた。
 鎌倉の2つのアマチュア写真愛好会が合同で出品していた。
 入るまでは舐めてかかっていたのだが、不意を突かれた。めちゃ上手い人がごろごろいた。
 静謐な印象の写真に俳句を添えているかたがいた。モチーフは桜と大仏さまであったり、雨であったり、石と雑草であったり……。
 こんな句がうがたれていた。

 残されて一人夕餉の半夏生草
 宇治十帖つづきは蓮の台(うてな)にて
 秋一音リフレインの雨となる

 熱心に句と写真を見ている、と思われたのだろう。お婆さんから「この写真を撮ったかたが会場にいるので呼んできましょうね」と言われ、しばしのち、私より5〜6歳年輩と思われる女性がやって来た。
 遠慮なく質問してみる。「残されて、ということはご主人、亡くなったのですか」
「そうなんです。半夏生を目にしてそんな句ができました。半夏生と書くと、季語がおかしなことになるので、草を敢えて付け足しました」
「宇治十帖は長々とつづきます。もうこの世では読まないで、死んでから続きを読むことにした、という句です。蓮の台(うてな)は極楽浄土に往かれた者が座るとされている台座なのですが、地獄じゃなく極楽に行きたいという願いも込めました」
 いや〜、勉強になります、教養が乏しいもので。

 縦が1メートル弱・横が2メートルくらいのA全ポスター、といった巨大写真の前でしばし色鮮やかな「御謝鹿池」の風景に酔いしれた、私はこの静謐な湖を2度訪ねたことがあった。と、うしろから声を掛けられてしまった。この写真を撮影された爺様だ。
 なんと、プリントは業者ではなく爺様ご自身がやられた、とのこと。
 Photoshopで写真を取り込み、A2印刷対応のプリンターで、巻きロール紙を操りながら印刷した、という。
 80歳の爺さんが独自でやったとね?
 私は御射鹿池から離れ、その手順と苦労、プリンター本機、ロール紙などなどに細かな質問を浴びせかけ、お金のことを訊くのは失礼かと思いつつ、プリンターは何色か、ロール紙はいくらか、2枚を切れ目なく合わせるためにどんな道具を使ったのか、などなどツッコんでしまった。
 プリンターのインクは10色だそうで、1本が2千円としたら替えインクだけで2万円がかかるということになる。ロール紙も予想どおりの高額で、しかも「なかなか上手くプリントができず、1本まるまる捨てることになってしまいました」などと爺さんは苦笑いを浮かべている。
 撮影から印刷まで、自分ひとりの力でやっちゃう技量と費用の捻出。鎌倉に多くいる教養と財力が有り余っているすご技ジジイ&ババアのリアルを見せつけられ、お腹がへっていたこともあって目眩を覚えた。この程度のお金なら一応は持っているが、半端ない生命力と人間力はお金で買えるものではないし、とりわけ私はこの2点に於いて劣っている。
 ほうほうの体で帰宅し、キーマカレーを食べてコーヒーをがぶ飲みして、なんとか折れそうな心身の体勢を立て直したのだった。
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