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2025年11月19日20:26

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優雅さの欠片もない別荘ライフ

 11月16日(日)の正午前にクルマで鎌倉を出発、山中湖に向かった。前日の土曜まで、全集に収載したい著作物の著者(大半が故人)に手紙を書いて著作物使用許可をとる、という面倒なことをしていた。中にはかつて私がコンタクトしたかたもおられ、畢竟、長文の手紙を書いたりしたものだから、ひどく疲れた。
 土曜の夜、カレンダーを眺めて、明日から山中湖へ行こう、今期最後になるだろうと思い始めた。山中湖ではネット環境がない上、スマホの使用は3ギガ以内と決めているので、YouTubeが使えない。なので、行く行かないは別にして、せっせとラジオドラマや詩の朗読をダウンロードし、外付けHDDに収めた。向こうに設置しているミニコンポはUSBメモリーのMP3ファイルを認識するものだから、好きな曲も片っ端からメモリーにDLした。
 日曜の朝は快晴だった。鎌倉市内が大渋滞するのは明白だったが、気分を変えたいという思いがまだ強かったので、行くことに。
 管理人さん用のお土産を駅前で買ったのち、クルマに乗り込んだ。
 途中、行きつけのラーメン店「一代」で極上の豚骨ラーメンを食べた。食べ終わって入口を出ると、無口というか無愛想この上ない店主が暖簾を外していたので、初めておやっさんに声を掛けた。
「あと5年は営業を続けてね」
 しばしおやっさんは黙り込み、「病気をしたりしたものだから5年は……無理かも」と答えた。
 短い会話はこれで終わった。
 山中湖のマンションに午後3時半着。
 窓という窓をすべて開け、たとえ小一時間であっても掛け布団を干し、クリーナーを掛け、Pタイル部は湿らせた雑巾で拭く。たったこれだけで30分くらいかかる。しかし面倒だとは思わない。私にとって儀式のようなものだから。
 ラーメン店近くのスーパーで買った冷凍あさりごはんと鶏手羽元のあぶり焼き、生味噌のインスタント味噌汁でさっさと夕食を済ます。
 問題はプロパンガスの契約を断っているため、シャワーは冷たい水しか出ないことだ。マンションは山梨県で最も寒い山中湖エリアで、しかも湖から100メートルほど標高が高いため、夜7時の気温は5度くらいで、朝はマイナス3度から5度になる。
 清潔症候群に近いので、それでもシャワーは浴びるのだが、首から胸に降りかかる水は当たり前だが冷た過ぎる。予め桃の香りがする浴用シャンプーで身体をこすってから流す。さすがに頭を洗って全身真水のシャワーというのは、夏でも無理だった。
 人生は修行のようなものだ、と多くの先人は言う。ギリシャの賢人セネカとか美輪明宏さんとか。私は物心がついた頃からこんにちまでいい加減に生きているものだから、せめて「別荘生活」期間くらいは、人生は修行だと言いたいわけである。
 翌日、管理人さんが来て、窓のシーリングをやってくれた。以前、室内に雨が侵入してきた事件があって、それを機に彼はもともと屋根職人だった経験から、なにかとその対策をしてくれている。
 この日、小さなカフェテーブルを組み立てた。段ボールを開けると、なんとなんと説明書が同封していなかった。何本ものナットや部品金具を絨毯の上にばらまき、どこにどうどのナットを使って閉めたらいいのか、血の巡りが悪い頭で取り組まざるを得なかった。1時間弱で組み上がったが、国語の期末試験くらいに頭を使った。
 日が暮れて、今夜は冷やしうどんと餃子という夕食。
 シャワーを肩から浴びるのが怖くなってきたので、下半身限定にした。
 夜、原田マハの短篇集を読み出すと、これが予想外に面白い。キュレーターの知識を活かした絵画小説家、というイメージは私の偏見でしかなく、すぐれたエンターテイメント性と硬質な文学観をお持ちの作家さん。
 面白さがマックスな小説というのは1時間半で疲れる。
 深夜、ラジオドラマをBluetoothイヤフォンで同じく1時間半聴いてから就寝。
 11月18日火曜日。餃子4個の朝ごはん後、クルマで湖の対岸にある図書館へ。MacbookProを持参して、メールチェック。mixiや友人のブログを拝読後、雑誌をちょっと閲覧したりしていると、あっと言う間に1時間が消えていく。
 図書館の裏にある森は富士山に繫がっている。
 近くには「かえでの道」という紅葉の名所や、三島由紀夫文学館などがある。
 ちょっと歩いてみようかな。
 湖畔の紅葉は圧巻だったが、かえでの道は更に見事だった。
 帰りは道をわざと外して落葉が10センチくらい積もっている森を歩いて、暇つぶしで観光案内所へ。女性職員さんが入口で旗の傾きを直していたので、声を掛けてみた。
「ここらあたりは、さすがに熊なんていませんよね?」と。
 彼女は笑いながら言った。
「残念ながらこの上に熊の目撃情報があるので歩かないほうがいいですよ」
 彼女が指差すエリアはたった今歩いて来たばかりだが、会話をする目的があるわけではないので、「そうですよね」と言ってクルマに引き返した。
 堆積する落葉の上を歩くのは気持ちよかった。童心に戻れた。秋を足下で感じることができた。
 11月19日、一日予定を早めて自宅に戻った。
 クルマの運転がことのほか楽しかった。
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