市に向かうとき月がやさしいことなどを思い出すだけの洗面台 #短歌
ノックされ個室を譲る呼吸までひとつの動作みたいに終わる #短歌
ぶどう酒の表面張力うつくしく赦されることばかりを話す #短歌
網戸越しに笑うくせだけ知っている隣の家の午後のほこりも #短歌
無駄なことだと思いながらも息を吸う 夜の真ん中に傘を開いて #短歌
ベランダのライターどれも火が弱い 雲の白さに息をまぜてる #短歌
お芝居のはずのあなたが笑うとき客席のほうが静かになった #短歌
くらやみにとけてしまえば、蝶だった 音のない花のうつるひかりよ #短歌
いい質問ですねの声がやわらかく背骨をなぞる午後のひかりに #短歌
火をつけて吸うたび冬の向こう側まだ知らぬことで胸がくすぶる #短歌
ちいさな手つなぎながらもその列についてく風のような不参加 #短歌
湯気のなか甘さが立ってゆく朝に誰にも会わず整える息 #短歌
冷めかけの紅茶のなかに沈めたくなってる言葉ほどやさしい #短歌
自分を許す事が上手くなったから朝のニュースも遠くで光る #短歌
マフラーを忘れたことに気づかずに日向を歩く風のあまさよ #短歌
向ヶ丘遊園駅あまた下り跡地には風が順路をつくるだけ #短歌
ちゃんと伝えられるようになりました 水の底でも息をしている #短歌
見たわけじゃない風がふれていっただけ夜のかたちを撫でていっただけ #短歌
ひかりさす踊り場にしてあいまいに誰でもなくて誰かといる日 #短歌
白けてもなお白くしてしまう癖 牛乳で割る日々のぬるさを #短歌
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