ひとしずくこぼしただけのつもりでもつま先まではもう届いてた #短歌
箱のなか とても静かでこわくなるマッチの影も息をしていた #短歌
くちびるを離れて光る空びんに「ただいま」がまだ揺れていたのよ #短歌
やさしさはたいてい風邪のにおいしてすすむたびだけ青さが募る #短歌
ふとももにひとしずくだけのこる午後 じんわり傘の記憶になって #短歌
自販機のあかるさごしに塾生が少しずつビルに吸われていく #短歌
エコ素材でできた花嫁マネキンに斜めからかすっていく首 #短歌
見えているのはくちびると日傘だけ きみの不在を強く思えり #短歌
合成着色料の恋をしていちばんきれいに溶けたもの勝ち #短歌
半透明の気体を恋と呼んでいた 臨港線沿いのぼくらの無所属 #短歌
労働の名を借りた折られた傘 誰の天気でもない駅前 #短歌
四半世紀の光に映るわたしだけ選べることが遠ざける夜 #短歌
着払いの失恋だった この染みは添加物まじりのやさしさです #短歌
知らないままきらきらしてる世界からわたしが消えたことだけ残る #短歌
夜という空のうすさを知っていた 鳥のはばたき布のはばたき #短歌
この川にあったかもしれない名前とすこしだけ似た色の風ふく #短歌
聖堂がただのインスタ映えでしかなくてこの阿呆船で世界一周 #短歌
軒下に返品された手が咲いて雨のあとにはもう元どおり #短歌
だれもいない道で石だけがあたたかくわたしは話さないままの子 #短歌
名前より先に実った果物たち 君もわたしもまだなにものでもない #短歌
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