明日、良心的出版社を創業し今は後進に経営を託した元シャチョーが来鎌するので、過日、彼からいただいた『アナキズムを読む』をぱらぱら繰っていると、なかに寺島珠雄の名著が紹介されていた(本書はアナキズム本を見開き2000字で紹介する書評本)。寺島を知ったのは大学3年の頃で、プレイガイドジャーナル(大阪の「ピア」みたいな情報誌)社の『釜ヶ崎 旅の宿りの長いまち』を有隣堂か栄松堂でたまたま買ったのである。このタイトルは私の蔵書中、秀逸ランキングで間違いなくベストテンに入る。口に出したらわかる、「かまがさき たびのやどりの ながいまち」。偶然なのか、五七五調で、「宿り」というほぼ意味がつかめる古語を用い、このスラム街に長く居着いているご自身の自己紹介を兼ね、「まち」を町でも街でもなくひらがなに開いたことで、常に日雇い仕事を「待ち」、重労働で疲れてのち呑むことを「心待ち」にし、試作のために閃く言葉を「待っている」のか、という解釈もできる。
これまで20回くらい本を整理して処分してきたが、まだ本棚にあった。引き出してぱらぱらと読んでみた。Amazonで見たら(中古本が)3851円+送料と結構高嶺がついている。
日本一のスラム釜ヶ崎。昭和30年代40年代のドヤ事情とかメシや酒の話や、「手配師」のピンハネについて書かれていた。寺島が見た便所のらくがきに「明輝は わざと とんこやらせて 金もうける」(京都の明輝建設)、「血鬼平海 一人から 三000円ピンハネ」(平海建設)などと企業名指しで揶揄しているものがあって、この頃(1977年)は現在に較べてまだかわいいもんだったな、などと思った。
元請けが7500円を支払い、手配師が3000円を抜く。
フクイチの除染作業員は、竹中平蔵率いるパソナを通して、政府が20万円を支給しているのに3万5千円の日当だった、というような記事を何十回と読まされたし、東京五輪でもいま話題沸騰中のマイナンバーカードも、半端ないピンハネが横行しているにもかかわらず、国民から抗議の声はあまり上がっていない。自分が学生の頃、手配師のような「口銭」稼ぎというのは、職業に貴賎なしとは言え、最も卑しい仕事だった。手配師と同様、女の稼ぎをあてに生きる「ヒモ」という短気的職業は、文学青年にとっては憧れる地位であったが(笑)。
それが今では人材派遣業者のCMがテレビでどんどん流れ、大手は一流企業となり、学生の人気企業にさえなっている。非正規労働者の賃金は異常な率でピンハネされ、当たり前のことながら派遣業者はリスクがゼロなので堅肥りする一方である。民間の低賃金は公務員の任期制雇用と共にこの国の経済のみならず人間を蝕んで、1億人は更なる貧困に陥らないよう現状肯定に終始し、保守化する。19世紀のイギリスやフランスの自然主義文学を読むと、目の前のことしか思いを馳せられない人間の群ればかりが目に付くが、21世紀の日本がまさかこんなふうに展開していくとは、想像だにしていなかった。
昨日は鎌倉・甲府の弾丸出張で疲れたものの、スリリングだったし面白かった。
往きの高速バスは50分遅れとなり、本来なら13時10分甲府着が14時になった。約束は14時だったので、バスのなかから15分遅れますと電話で先方に伝えた。
駅のコンビニで買ったおにぎりを歩き食いしながら新聞社に向かい、途中の公衆トイレで歯を磨いてから社を訪ねた。
帰りはJR。特急あずさで八王子まで出て、あとは横浜線と横須賀線。
あずさを1本遅らせて指定券を買った。駅の向かいに「吉野家」があったので、小走りで行って、焼き鳥丼を注文。が、これが売り物か、というくらいに不味い鶏肉で、ブラジル産かと思えるぶよぶよした若鶏の歯応えが気色悪い(しかし、帰宅後ネットで口コミを調べてみたら、絶賛する記事ばかり)。人材派遣のピンハネ業にしても鶏肉の味にしても、時代は変わりましたなあ(笑)。出来の悪いクズみたいな私を温かく迎え、食うに困らないどころか贅沢さえさせてくれたニッポン社会は、いったいどこに行っちゃったのでしょう? チャットGPTに訊いてみていいですか。
改札口に隣接する山梨のプレミアムショップで、お仏壇に供えるお菓子を買って送ってもらい、あと3分で発車というあずさに乗り遅れまいと小走りで1番線へ行って、無事6号車に乗った。
鎌倉駅手前で1冊、文庫本を読了。往復の「通勤」時間はなかなかに充実できた。
ログインしてコメントを確認・投稿する