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2023年04月15日23:56

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佐伯祐三

大阪中之島美術館の佐伯祐三ｺﾚｸｼｮﾝ。
漸くの御披露目です。

開館1周年記念特別展
佐伯祐三
～自画像としての風景～

といっても東京ｽﾃｰｼｮﾝｷﾞｬﾗﾘｰからの巡回です。

東京展のﾒｲﾝﾋﾞｼﾞｭｱﾙは
・郵便配達夫
でしたっけ、大阪展のそれは
・黄色いﾚｽﾄﾗﾝ
いずれも中之島美術館の所蔵であり、かつ最晩年の4作のうちの1つであることは共通しています。

【展覧会構成】

◆ﾌﾟﾛﾛｰｸﾞ自画像
藝大卒業製作や顔をえぐり取った《立てる自画像》まで10点。うち和歌山県美のものは5月23日から東京現美の作品に展示替えです。

◆第1章大阪と東京
東京で住んだ下落合
大阪は川口で描かれた滞船ｼﾘｰｽﾞ等。
妻子や下宿先の人々(初公開)、静物画もここで紹介。

◆第2章ﾊﾟﾘ
第一次と第二次の渡欧作品を「壁のﾊﾟﾘ」「線のﾊﾟﾘ」と分けて紹介。

◆第3章ｳﾞｨﾘｴ=ｼｭﾙ=ﾓﾗﾝ
晩年(といっても30歳)にﾊﾟﾘ郊外の村ﾓﾗﾝで描いた作品たち。
《ﾓﾗﾝの寺》5点の並びは圧巻でした。

中央が東京国立近代美術館、他は中之島のもの。

◆ ｴﾋﾟﾛｰｸﾞ
ﾊﾟﾘに戻った佐伯が28年3月に最後に描いた4点。

個人的にいちばん心に響いたのは

・No.135 ﾓﾗﾝ風景

色彩的には地味ですが傾いた画面構成に衝撃を受けました。
隣には名作《煉瓦焼》があるというのに。

また、
・No.94 ｶﾌｪ・ﾀﾊﾞ

も珍しいくらい明るくて、署名まで
軽やかな線が踊る素敵な作品でした。

＊＊＊＊＊

講演会を聴きました。

大阪中之島美術館の佐伯祐三ｺﾚｸｼｮﾝ
大阪中之島美術館館長菅谷富夫

世界一ともいえる佐伯祐三ｺﾚｸｼｮﾝの形成過程のお話です。

現在中之島にある作品は65点
・うち所蔵59 寄託6
・油彩61 ﾄﾞﾛｰｲﾝｸﾞ3 水彩1
・他に葉書、写真、ﾗｲﾌﾏｽｸ等の資料

形成過程で分類すると
(1)山本發次郎ｺﾚｸｼｮﾝ42
(2)光徳寺関係
(3)他

(1)山本發次郎ｺﾚｸｼｮﾝ
山本(1887-1951)は芦屋在住のｺﾚｸﾀｰで
・油彩(佐伯の他23点)
・墨蹟(260点)
・染色(ｲﾝﾄﾞﾈｼｱのﾊﾞﾃｨｸ302点)
・陶芸、浮世絵、朝鮮の石像等を持っていました。
うち油彩と墨蹟が中之島へ寄贈されたのです。
石像も大阪市へ寄贈されましたが公園局の管轄となりましたのでどうなったか分かりません。鶴見緑地にあるとかいうことも聞き及んでいますが。

中之島が購入したﾓﾃﾞｨﾘｱｰﾆの《髪をほどいた裸婦》ももとは山本の所蔵でしたが手放されまして
当館が購入したのはご存知の通りです。

さて大戦中、ｺﾚｸｼｮﾝは疎開大作戦が行われました。
ｺﾚｸｼｮﾝに天皇のご宸翰(しんかん・直筆の書)があったので軍からﾄﾗｯｸが提供されたのです。
ただしあくまでもご宸翰のためのものなので全てを疎開させることは出来ず、一部を隙間に詰め込んだような形でした。
この時疎開させるものをどう選んだのかは不明です。
結果、佐伯作品150点のうち半数が焼失しました。

ではそもそも山本はどうやって佐伯作品に出会ったのか。
佐伯がﾊﾟﾘで客死しますと作品が日本に帰って参りまして。
大阪の朝日会館で展覧会が開かれました。
帰ってくるときには画布状態でしたので展覧会には額装しなければなりません。
額屋には「代金は売れたら払う」と言っていたのですが
実際には殆ど売れなかったようです。
そこで「踏み倒されるか!?」と心配した額屋が
(佐伯の実家は由緒ある寺院ですから踏み倒すことは無かったでしょうが)
売り込みに走ったのが山本でした。
額屋というものはｺﾚｸﾀｰと繋がりがあり、誰がどんな好みかよく知っているからです。

果たして山本は
「線に命がある」と直感し収集に乗り出しました。
そればかりか東京の展覧会も援助し画集も作ったのです。

その山本ｺﾚｸｼｮﾝ33点を息子の清雄氏より1983年に寄贈されました。
他の遺族からも9点購入しています。

(2)光徳寺関係
佐伯の実家は1580(天正8)年創立の浄土真宗本願寺派の寺です。
父の代で14代目。

姉は大阪市港区市岡に嫁いでいました。
その嫁ぎ先を訪ねたときに描いたのが
・蟹(No.51)
です。
佐伯は速描きの人でしたが食卓の蟹を描きだしては皆さん困ったのではないでしょうか。
ﾊｻﾐなど速いﾀｯﾁで描かれていますね。

姉のところの甥っ子を連れて川口辺りで描いていたのが
《滞船》ｼﾘｰｽﾞです。

また父の実家は四条畷ですので
・河内打上附近(No.15)
・河内灯油村附近(No.16)
はﾊﾟﾘに行く前、挨拶に行った折に描いたようです。
(ﾌｫｰｳﾞ派のような作品)
中央の白いところは溜池だったそうでいまでもﾓﾃﾞﾙとなった場所が分かるそうです。

・No.40-42
の東京での下宿先大石家の人々も檀家ですので光徳寺関係といえますね。

(3)他～佐伯の恩人友人、画商からの購入(3)

佐伯はいまの北野高校(当時は北野中学)出身です。
・No.85ﾉｰﾄﾙﾀﾞﾑ
は佐伯が一時帰国した際に美術の中村先生にﾌﾟﾚｾﾞﾝﾄしたものです。
誰のものか問題になったようですが、25年前の展覧会のためにお借りしたときは同窓会のものになっていました。
しかし「貴重なものなので金庫に入れてます」…カビがはえていました。
という訳で中之島に寄贈いただきました。

友人にも作品をあげていたようですし

・No.31目白の風景
は慈善事業もしている兄の祐正氏が福祉課長に贈ったもので、光徳寺さんが了承してくだされば、と筋を通された上でご寄贈いただきました。

話は戻りますが
山本ｺﾚｸｼｮﾝは実は中之島だけに譲られたわけではありません。

・No.104ガス灯と公告(東京国立近代美術館)
いいですねえこれ。欲しかったなあ(笑)。

・No.128 ﾓﾗﾝの寺(同)
これも、いいですね。まあうちにもﾓﾗﾝの寺は沢山ありますから。

・No.111公告(ｳﾞｪﾙﾀﾞﾝ)
これは大原美術館にあります。
いったい佐伯という人は1週間毎に作品の雰囲気が変わるので描いた時期や順序が特定されやすいのです。
これは第2回渡欧の作品ですね。
同じｶﾌｪを角度を変えて描いたものが中之島にあります(No.112)。

さて中之島のｺﾚｸｼｮﾝについてお話してきましたが
その特徴についてまとめてみますと

①美術館設立の契機となったこと
②世界?最大のｺﾚｸｼｮﾝであること
③来歴がわかる基準作であること
④第二次ﾊﾟﾘ滞在期の作品が充実していること
～これは戦時下で何を疎開させるかという時に
最後に佐伯が命を削るようにして描いたものを優先したからではないか、と思っています。

多くの佐伯作品を持つ美術館の使命として、
忘れられないよう紹介し続けていくという決意も話されていました。

＊＊＊＊＊

Q&A

問。
珍しい海景作品が一点だけ出ていましたが
これから発見される作品もあるのでしょうか。

答。
出てきても小さなものでしょう。
大きなものなら画商が放っておきません。

問。
常設で見られるようになりませんか。

答。
企画展を見れば収蔵品はﾀﾀﾞで見られるのではないのか、とかいうご要望もありますが経営的に難しいです。
常設の部分にも人件費や光熱費はかかりますし、
条例で常設は800円と決められていますので厳しい。
それよりはｺﾚｸｼｮﾝも何らかの企画展示とした方が皆さんも来てくださるのではないかと思っています。

＊＊＊＊＊

なるほど常設でなくｺﾚｸｼｮﾝの企画という体裁ね。
ちなみに今ｺﾚｸｼｮﾝ展では

ﾃﾞｻﾞｲﾝに恋したｱｰﾄ