mixiユーザー(id:21651068)
2022年10月29日23:31
59 view
マン・レイ
3つ並んだﾄｹﾞﾄｹﾞｱｲﾛﾝ。《贈り物》は取っ手の形が色々です。
ﾏﾝ・ﾚｲのｵﾌﾞｼﾞｪ
日々是好物｜いとしきものたち
@DIC川村記念美術館
ﾏﾝ・ﾚｲといえば
・空に浮かぶ唇《恋人たち》
・《ｱﾝｸﾞﾙのｳﾞｧｲｵﾘﾝ》
などが思い起こされますが
ｵﾌﾞｼﾞｪに特化した珍しい展覧会です。
彼にとってｵﾌﾞｼﾞｪは
「楽しませ、当惑させ、困らせ、内省を促すように作られているが 他の芸術作品に通常求められているような優れた手技による称賛を喚起するためのものではない」(展覧会に掲げられた言葉より)
だとしています。
【展覧会構成】
1章 ｱﾒﾘｶ(1890-1921)
2章 ﾊﾟﾘ(.1921-1940)
3章 ｵﾌﾞｼﾞｪの展開(1940-76)
初期絵画では
・室内または静物+部屋(富士美術館)
が繊細でよかった。
本格的なｵﾌﾞｼﾞｪが登場するのはﾊﾟﾘ時代。
ｱｲﾛﾝに一列の鋲を付けた
・贈り物
やﾒﾄﾛﾉｰﾑに瞳の写真を付けた
・破壊されざるｵﾌﾞｼﾞｪ/永遠のﾓﾃｨｰﾌ
は複数作品が並んでいました。
そう、ﾏﾝ・ﾚｲは自ら複製を何度も繰り返します。
作品ﾀｲﾄﾙも面白い。
晩年の
・ﾌﾞﾙｰ・ﾌﾞﾚｯﾄﾞ(青く塗ったﾊﾞｹｯﾄ)
・ﾍﾟｯｼｬｰｼﾞｭ(桃+風景の造語)
も複数ﾊﾞｰｼﾞｮﾝあるのですね。
講演会を聴きました。
木水千里（美学・美術史、早稲田大学助教）
展覧会図録で展開されている、ﾏﾝﾚｲのﾚﾌﾟﾘｶ制作をどうみるかというお話でした。
��ﾚﾌﾟﾘｶの問題点
ﾏﾝ・ﾚｲのｵﾌﾞｼﾞｪについてみると、世界で展示されているのはほぼ再制作としてのﾚﾌﾟﾘｶです。
今回の展覧会でも《贈り物》やﾒﾄﾛﾉｰﾑ作品は複数が並んでおり、
ﾚﾌﾟﾘｶの存在に気づかされます。
ではﾚﾌﾟﾘｶは何故作られたのでしょうか。
美術品とはｵﾘｼﾞﾅﾙの１点物ではないのでしょうか。
��ｱﾒﾘｶ時代の絵画の複製
晩年のﾏﾝ・ﾚｲはｷﾞｬﾗﾘｰの要請によってﾚﾌﾟﾘｶを作っていました。
しかし《贈り物》などは、そもそも展示中に盗まれ、14年後に写真が発表されるという経過を辿っています。
まるで神話化への戦略のよう。
現在のものは盗まれた後の再制作品でしょう。
ｵﾘｼﾞﾅﾙがないので当初の作品と比べることもできません。
今回のﾊﾞｰｼﾞｮﾝ同士を比べても取っ手や刻印が全く違う。似せていないんです。
ﾏﾝ・ﾚｲは画家としてｷｬﾘｱをｽﾀｰﾄさせました。
しかしその時点で成功したとは必ずしも言えません。
例えば巨大な唇を描いた《恋人たち》は化粧品ﾒｰｶｰのﾍﾚﾅ・ﾙﾋﾞﾝｼｭﾀｲﾝが欲しがったのでﾏﾝ・ﾚｲはとても喜んだのですが、
化粧品のﾌﾟﾛﾓｰｼｮﾝに使われた後、送り返されてきました。「借りただけ」だったんです。
今や《ｱﾝｸﾞﾙのｳﾞｫｲｵﾘﾝ》ｵﾘｼﾞﾅﾙが16億で落札されてﾆｭｰｽになるくらいなのですけれどね。
ﾏﾝ・ﾚｲは30歳でﾊﾟﾘに行き、戦争でｱﾒﾘｶに帰国しました。
それでﾌﾗﾝｽに置いてきた作品を帰国後に再制作せざるを得なかったのです。
再制作には、記録として自ら撮っていた写真をもとにしました。
しかしｵﾘｼﾞﾅﾙとそっくりにしていないのです。
(画像を挙げながら)背景が違う、色味が違う、シルエットの曲線が違う…
主題や構図は似かよっていても即興の変奏曲のように違う作品を作ろうとしています。
「複製」を作ってもそれはｵﾘｼﾞﾅﾙの価値を上げるだけだと思っていました。
そうでなく１つ１つが作品なんだと。
作ることに対する考えがまとまってきたのです。
ﾒﾄﾛﾉｰﾑの瞳を貼った作品は
ｵﾘｼﾞﾅﾙが《破壊すべきｵﾌﾞｼﾞｪ》というﾀｲﾄﾙだったせいか
本当に壊されてしまいました。
そのため作られたﾚﾌﾟﾘｶは《破壊されざるｵﾌﾞｼﾞｪ》《永遠のﾓﾃｨｰﾌ》
とﾀｲﾄﾙまで変えました。
作品が破壊されたことで余儀なくされた再制作ですが
そのことからｵﾘｼﾞﾅﾙにこだわらない自由な態度が生まれたのです。
��60〜70年代のﾚﾌﾟﾘｶ
・桃と景色《ﾍﾟｯｼｬｰｼﾞｭ》
ﾏﾝ・ﾚｲの伝記によりますとこの時期に盛んに行われたﾚﾌﾟﾘｶ制作は経済的な理由によるものだといいます。
そして「商品として認可する」という表現からわかるとおり、作ったものに許可を与える、つまり自分で作っていない。
彼にとっては最初に制作したときのｱｲﾃﾞｱが大事なのでﾚﾌﾟﾘｶには抵抗がありません。
ｲﾀﾘｱのｷﾞｬﾗﾘｽﾄ・ｼｭｳﾞｧﾙﾂとの往復書簡が残されています。
例えば《贈り物》のﾚﾌﾟﾘｶ10個についての契約書では、
ﾏﾝ・ﾚｲが貰うのは1個につき僅か100ﾄﾞﾙです。
そして「500ﾄﾞﾙ以下では売らないで」と書いてあります。
展覧会を前にしたやりとりでは、ﾚﾌﾟﾘｶが作りにくいものについて話し合われています。
そしてｺﾚｸﾀｰから借りていることにして売らないでくれとかﾌﾞﾙｰ・ﾌﾞﾚｯﾄﾞは大きくて持っていくのが大変だ等々。
このｷﾞｬﾗﾘｽﾄとは親しかったとみえて
ﾃﾞｭｼｬﾝのｸﾞﾗｽﾎﾙﾀﾞｰに似ているものを見つけた、とﾏﾝ・ﾚｲが言えば、12個ほど買っといてといわれたり(大きくて邪魔なんですけど！)
ﾏﾝ・ﾚｲのガラス瓶に入った作品を割ってしまったが蓋と中身を持っていくから(作り直して)と悪びれなかったり。
割れることはよくあったようで、こっちで買うからﾌﾞﾗﾝﾄﾞを教えてとか
なにﾏﾖﾈｰｽﾞの瓶だって? それじゃ今度皆で食事して瓶をｶﾗにしよう。
うーん、ｲﾀﾘｱ人だからでしょうか…
ﾏﾝ・ﾚｲも自分の作品は大事にされていないのかなんて書いています。
ﾃﾞｭｼｬﾝもそうですけれどﾚﾃﾞｨﾒｲﾄﾞの作品はﾚﾌﾟﾘｶが作りやすいというか。
《ﾌﾗﾝｽにのﾊﾞﾚｴ》は箒ですしね。
��ﾏﾝ・ﾚｲのﾚﾌﾟﾘｶの美術史での位置付け
20世紀前半、ﾕﾈｽｺによる全て複製の展覧会が世界中をめぐりました。
日本にも来まして、ｾｯﾄで買うこともできましたので
いまｾｯﾄで東大駒場にあるはずです。
これは教育のための複製ですね。
ﾏﾙﾛｰは「空想美術館」で複製」によれば作品どうしの完全な対照を可能にするとのべ、
ﾌｫｰﾄﾘｴは同時に複数の作品を作る手法を研究してｵﾘｼﾞﾅﾙ性を破壊しようとしました。
同じ複製といってもこの両者とﾏﾝ・ﾚｲのﾚﾌﾟﾘｶは異なります。
結局ﾏﾝ・ﾚｲは「自分は1つだけ作り続けて複製のことは技術者に任せよう」という態度になりました。
死の2年前、ﾏﾝ・ﾚｲは5000個のｱｲﾛﾝを作ることを許可しました。
似て非なる多数な作品が並ぶといえば思い起こされるのはｳｫｰﾎﾙです。
この2人は面識があります。
それが次世代の芸術への橋渡しではないでしょうか。手の痕跡をなくし、制作の背景を断ち、目の前のものだけが全て。
「作品は向かい合っているあなただけのもの」
「あとは全てお互いを信頼しあえば足りることです」
(1972年ﾊﾟﾘ国立近代美術館展覧会ｶﾀﾛｸﾞの序文)
＊＊＊＊＊
講演の後の質疑応答では、それでは我々はﾚﾌﾟﾘｶをみればよいのか。ﾈｯﾄのﾃﾞｰﾀをみればよいのか。現代においてｵﾘｼﾞﾅﾙをみることの意義は？
という質問が出ました。
それについては先生も考えれおられるようで。
わたし個人としては、ｻｲｽﾞ感はｵﾘｼﾞﾅﾙでしか得られないと思っているのですが、どうでしょうか。
1月15日まで。
https:/
ﾏﾝ・ﾚｲのｵﾌﾞｼﾞｪ
日々是好物｜いとしきものたち
@DIC川村記念美術館
ﾏﾝ・ﾚｲといえば
・空に浮かぶ唇《恋人たち》
・《ｱﾝｸﾞﾙのｳﾞｧｲｵﾘﾝ》
などが思い起こされますが
ｵﾌﾞｼﾞｪに特化した珍しい展覧会です。
彼にとってｵﾌﾞｼﾞｪは
「楽しませ、当惑させ、困らせ、内省を促すように作られているが 他の芸術作品に通常求められているような優れた手技による称賛を喚起するためのものではない」(展覧会に掲げられた言葉より)
だとしています。
【展覧会構成】
1章 ｱﾒﾘｶ(1890-1921)
2章 ﾊﾟﾘ(.1921-1940)
3章 ｵﾌﾞｼﾞｪの展開(1940-76)
初期絵画では
・室内または静物+部屋(富士美術館)
が繊細でよかった。
本格的なｵﾌﾞｼﾞｪが登場するのはﾊﾟﾘ時代。
ｱｲﾛﾝに一列の鋲を付けた
・贈り物
やﾒﾄﾛﾉｰﾑに瞳の写真を付けた
・破壊されざるｵﾌﾞｼﾞｪ/永遠のﾓﾃｨｰﾌ
は複数作品が並んでいました。
そう、ﾏﾝ・ﾚｲは自ら複製を何度も繰り返します。
作品ﾀｲﾄﾙも面白い。
晩年の
・ﾌﾞﾙｰ・ﾌﾞﾚｯﾄﾞ(青く塗ったﾊﾞｹｯﾄ)
・ﾍﾟｯｼｬｰｼﾞｭ(桃+風景の造語)
も複数ﾊﾞｰｼﾞｮﾝあるのですね。
講演会を聴きました。
木水千里（美学・美術史、早稲田大学助教）
展覧会図録で展開されている、ﾏﾝﾚｲのﾚﾌﾟﾘｶ制作をどうみるかというお話でした。
��ﾚﾌﾟﾘｶの問題点
ﾏﾝ・ﾚｲのｵﾌﾞｼﾞｪについてみると、世界で展示されているのはほぼ再制作としてのﾚﾌﾟﾘｶです。
今回の展覧会でも《贈り物》やﾒﾄﾛﾉｰﾑ作品は複数が並んでおり、
ﾚﾌﾟﾘｶの存在に気づかされます。
ではﾚﾌﾟﾘｶは何故作られたのでしょうか。
美術品とはｵﾘｼﾞﾅﾙの１点物ではないのでしょうか。
��ｱﾒﾘｶ時代の絵画の複製
晩年のﾏﾝ・ﾚｲはｷﾞｬﾗﾘｰの要請によってﾚﾌﾟﾘｶを作っていました。
しかし《贈り物》などは、そもそも展示中に盗まれ、14年後に写真が発表されるという経過を辿っています。
まるで神話化への戦略のよう。
現在のものは盗まれた後の再制作品でしょう。
ｵﾘｼﾞﾅﾙがないので当初の作品と比べることもできません。
今回のﾊﾞｰｼﾞｮﾝ同士を比べても取っ手や刻印が全く違う。似せていないんです。
ﾏﾝ・ﾚｲは画家としてｷｬﾘｱをｽﾀｰﾄさせました。
しかしその時点で成功したとは必ずしも言えません。
例えば巨大な唇を描いた《恋人たち》は化粧品ﾒｰｶｰのﾍﾚﾅ・ﾙﾋﾞﾝｼｭﾀｲﾝが欲しがったのでﾏﾝ・ﾚｲはとても喜んだのですが、
化粧品のﾌﾟﾛﾓｰｼｮﾝに使われた後、送り返されてきました。「借りただけ」だったんです。
今や《ｱﾝｸﾞﾙのｳﾞｫｲｵﾘﾝ》ｵﾘｼﾞﾅﾙが16億で落札されてﾆｭｰｽになるくらいなのですけれどね。
ﾏﾝ・ﾚｲは30歳でﾊﾟﾘに行き、戦争でｱﾒﾘｶに帰国しました。
それでﾌﾗﾝｽに置いてきた作品を帰国後に再制作せざるを得なかったのです。
再制作には、記録として自ら撮っていた写真をもとにしました。
しかしｵﾘｼﾞﾅﾙとそっくりにしていないのです。
(画像を挙げながら)背景が違う、色味が違う、シルエットの曲線が違う…
主題や構図は似かよっていても即興の変奏曲のように違う作品を作ろうとしています。
「複製」を作ってもそれはｵﾘｼﾞﾅﾙの価値を上げるだけだと思っていました。
そうでなく１つ１つが作品なんだと。
作ることに対する考えがまとまってきたのです。
ﾒﾄﾛﾉｰﾑの瞳を貼った作品は
ｵﾘｼﾞﾅﾙが《破壊すべきｵﾌﾞｼﾞｪ》というﾀｲﾄﾙだったせいか
本当に壊されてしまいました。
そのため作られたﾚﾌﾟﾘｶは《破壊されざるｵﾌﾞｼﾞｪ》《永遠のﾓﾃｨｰﾌ》
とﾀｲﾄﾙまで変えました。
作品が破壊されたことで余儀なくされた再制作ですが
そのことからｵﾘｼﾞﾅﾙにこだわらない自由な態度が生まれたのです。
��60〜70年代のﾚﾌﾟﾘｶ
・桃と景色《ﾍﾟｯｼｬｰｼﾞｭ》
ﾏﾝ・ﾚｲの伝記によりますとこの時期に盛んに行われたﾚﾌﾟﾘｶ制作は経済的な理由によるものだといいます。
そして「商品として認可する」という表現からわかるとおり、作ったものに許可を与える、つまり自分で作っていない。
彼にとっては最初に制作したときのｱｲﾃﾞｱが大事なのでﾚﾌﾟﾘｶには抵抗がありません。
ｲﾀﾘｱのｷﾞｬﾗﾘｽﾄ・ｼｭｳﾞｧﾙﾂとの往復書簡が残されています。
例えば《贈り物》のﾚﾌﾟﾘｶ10個についての契約書では、
ﾏﾝ・ﾚｲが貰うのは1個につき僅か100ﾄﾞﾙです。
そして「500ﾄﾞﾙ以下では売らないで」と書いてあります。
展覧会を前にしたやりとりでは、ﾚﾌﾟﾘｶが作りにくいものについて話し合われています。
そしてｺﾚｸﾀｰから借りていることにして売らないでくれとかﾌﾞﾙｰ・ﾌﾞﾚｯﾄﾞは大きくて持っていくのが大変だ等々。
このｷﾞｬﾗﾘｽﾄとは親しかったとみえて
ﾃﾞｭｼｬﾝのｸﾞﾗｽﾎﾙﾀﾞｰに似ているものを見つけた、とﾏﾝ・ﾚｲが言えば、12個ほど買っといてといわれたり(大きくて邪魔なんですけど！)
ﾏﾝ・ﾚｲのガラス瓶に入った作品を割ってしまったが蓋と中身を持っていくから(作り直して)と悪びれなかったり。
割れることはよくあったようで、こっちで買うからﾌﾞﾗﾝﾄﾞを教えてとか
なにﾏﾖﾈｰｽﾞの瓶だって? それじゃ今度皆で食事して瓶をｶﾗにしよう。
うーん、ｲﾀﾘｱ人だからでしょうか…
ﾏﾝ・ﾚｲも自分の作品は大事にされていないのかなんて書いています。
ﾃﾞｭｼｬﾝもそうですけれどﾚﾃﾞｨﾒｲﾄﾞの作品はﾚﾌﾟﾘｶが作りやすいというか。
《ﾌﾗﾝｽにのﾊﾞﾚｴ》は箒ですしね。
��ﾏﾝ・ﾚｲのﾚﾌﾟﾘｶの美術史での位置付け
20世紀前半、ﾕﾈｽｺによる全て複製の展覧会が世界中をめぐりました。
日本にも来まして、ｾｯﾄで買うこともできましたので
いまｾｯﾄで東大駒場にあるはずです。
これは教育のための複製ですね。
ﾏﾙﾛｰは「空想美術館」で複製」によれば作品どうしの完全な対照を可能にするとのべ、
ﾌｫｰﾄﾘｴは同時に複数の作品を作る手法を研究してｵﾘｼﾞﾅﾙ性を破壊しようとしました。
同じ複製といってもこの両者とﾏﾝ・ﾚｲのﾚﾌﾟﾘｶは異なります。
結局ﾏﾝ・ﾚｲは「自分は1つだけ作り続けて複製のことは技術者に任せよう」という態度になりました。
死の2年前、ﾏﾝ・ﾚｲは5000個のｱｲﾛﾝを作ることを許可しました。
似て非なる多数な作品が並ぶといえば思い起こされるのはｳｫｰﾎﾙです。
この2人は面識があります。
それが次世代の芸術への橋渡しではないでしょうか。手の痕跡をなくし、制作の背景を断ち、目の前のものだけが全て。
「作品は向かい合っているあなただけのもの」
「あとは全てお互いを信頼しあえば足りることです」
(1972年ﾊﾟﾘ国立近代美術館展覧会ｶﾀﾛｸﾞの序文)
＊＊＊＊＊
講演の後の質疑応答では、それでは我々はﾚﾌﾟﾘｶをみればよいのか。ﾈｯﾄのﾃﾞｰﾀをみればよいのか。現代においてｵﾘｼﾞﾅﾙをみることの意義は？
という質問が出ました。
それについては先生も考えれおられるようで。
わたし個人としては、ｻｲｽﾞ感はｵﾘｼﾞﾅﾙでしか得られないと思っているのですが、どうでしょうか。
1月15日まで。
https:/
4
0
ログインしてコメントを確認・投稿する