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2022年07月08日02:25

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松竹東急というBS局(260ch)は、映画選択の着眼点が面白いと思う。木下恵介監督「笛吹川」(1960)をハイビジョンで見て。

先日、映画談義に花を咲かせていたとき、BSの新チャンネル“松竹東急”を知らない友人がいたので、ぜひ注目するよう進言しました。松竹が噛んでいるから松竹の古い映画を放送してくれるのですが、けっこうマニア的なタイトル選択をしています。僕は新藤兼人の本を読んでいたときに「ふくろう」を録画しました(未見ですけど=笑)。

他に外国映画をラインナップしていますが、他局で放送した作品ばかりなのは仕方ない。でも「しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス」、「ワン・デイ 23年のラブストーリー」という選択は“おや?”と感じさせます。「アザー・ガイズ 俺たち踊るハイパー刑事!」(2010)も近々放送なので、うれしく思ってます。←エンド・クレジットが映画史上に残る傑作だと思う。

もちろんすでに録画済み作品ばかりですが、ハイビジョン放送で見直すことが出来るのでうれしい。今回は「笛吹川」を楽しみました。いや、楽しめたと言えるかな? つまりセリフが聞きづらく、ほとんどどうでもええわという気分で見てしまったのです。ボリュームを上げてまで“一言一句を聞き漏らさないぞ”という作品ではないと感じたもので(笑)。

ご承知の方も多いと思いますが、「笛吹川」はモノクロ撮影し、それに“人口着色”した映画です。ポスターには“特殊色彩”とあります。何が特殊なものか。こういうカラー化を人口着色(略してジンチャク)と言うのですよ。子供のころは“総天然色”にあこがれていたから、モノクロ画面にジンチャクを施した映画なんか“フンっ!”でした。

しかし今回ハイビジョンで見ると、モノクロ画面のシャープさが強調されて、オールカラーで撮影した画面よりも“引き締まった”感じがするではありませんか。そして深沢七郎による庶民一家の大河ドラマという形式が、そのシャープなモノクロ映像で引き立っていたのでした。

僕はかつて深沢七郎の小説に入れ込んだことがあり、初版本をいくつか持っています。とはいえ全部は読んでおらず、「笛吹川」も未読。しかし「甲州子守唄」には感激したことを覚えています。深沢七郎に手を伸ばしたのは、当時の初版本ブームからは外れた位置にいた事(つまり安く買えて、値上がれば儲けが大きい)、そして友人が「風流無譚」を自費出版した(海賊版ですが)ことからでした。

それはともかく、木下恵介監督作は深沢七郎独特の庶民に対する視線というものとは別モノではあります。しかし山田洋次のような“日本共産党下部組織民主青年同盟賛歌”というフォーマットではありません。そのドラマが、モノクロの引き締まった映像でスコープサイズに展開するわけです。もちろん合戦シーンが売りでもない(その割に多いけど=笑)。

僕にしてみると、当時の市川染五郎と中村万之助の兄弟がワキに顔を見せているというあたりもポイントでした。岩下志麻なんか、セリフは結局1つだけだったのでは? 高峰秀子が18歳から80歳超までを演じると言われても、そっちについてはご自由に、という気分なのですけどね。

ということで、木下恵介という監督さんが“特殊な技法に色気を見せた”意欲作として楽しめました。最近亡くなった川津祐介も顔を見せていたし。

ふと公開日を調べてみたら、1960年10月19日なんですね。その10日前に「日本の夜と霧」が公開され、3日で打ち切られたわけです。そのあたりのいきさつに木下恵介がどう関与していたのかは知りませんが、松竹という映画会社が大きく揺れた時期の“大作時代劇”であることは間違いないと思います。

なお今回僕が見たバージョンは、上映時間が1時間57分でした。オールシネマ・オンラインには123分とありますが、キネマ旬報の増刊号“戦後18年日本映画総目録”には3208メートルとあるので、オールシネマオンラインの記載ミスだと考えます。
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