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2022年03月16日13:41

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塩原温泉一泊目

 3月6日から2泊で「家出」を決行。朝9時半頃に鎌倉駅を出る湘南新宿ラインに乗る。乗り込む前にとうきゅうストアの総菜フロアで鶏飯おにぎり2個パックを買っておいた。
 赤羽あたりまでは車窓を眺めて旅情に浸るなんて気分でもないので、ハヤカワミステリー文庫の『赤いオーロラの街で』を読んでいた。世界同時の電力シャットダウン、というのが地球物理学的にあり得るかどうかは分からないものの、読み進んでいくうちに、ロシアのウクライナ侵攻によるカタストロフィ的情勢が生じたことを想えば、あり得ないSF世界でもない。むしろリアルに受け止められた。文章に衒いや気取りがなく、登場人物のキャラクターが平凡かつ好感が持てて、ある意味電車内で読むにはこれ以上ない長編小説だ。

<仕事に倦んだプログラマーの香山秀行は、上司の勧めで北海道・知床を訪れる。町の人々から歓迎を受けるが、その夜、空一面に赤いオーロラが発生。街全体が暗闇に包まれる。それは巨大な太陽嵐による、世界停電の始まりだった――未曾有の困難に立ち向かう人びとを描く、第5回ハヤカワSFコンテスト最終候補作>(早川書房のHPから)

 宇都宮まで約3時間。黒磯行きの東北線普通列車に乗り換え、ロングのシートでおにぎりを取り出すのは憚れるので、乗降ドアの前に行って立ち食いした。13時13分に黒磯着。
 那須在住の漫画家が待ってくれていた。
 塩原への往き道にある「チーズガーデン」という地元では有名な大型店舗に寄ってもらい、高校の恩師宛てにチーズケーキを送った。
 漫画家は千本松牧場に行って一緒に牧場ソフトを食べようと言うので、同意。しかし、訪ねてみたら、ソフトクリーム売り場には巨大と言えるほどの行列が出来ている。わざわざ並んで食べるほどでもないので、パスした。
 塩原に向かう途中、いろいろ彼と話をするのだが、ますます依怙地になっていて、閉口する。彼は30年来、「不正受給金」で奥さんと暮らしてきた。しかし、「一発大当たりを出して儲ける」という夢は巨大化の一途を辿っている。もう少し地道な人生觀を持ったほうがいい、と忠告をしてきたのだが、そもそも働く気がない。不正受給と奥さんのバイトでかつかつの暮らしを続けている。ネットのWi-Fiは隣家の無線Wi-Fiをもらって繋いでいるそうで、「コンビニで週2日、4時間ずつ働くだけで、光ケーブル代とスマホ代とガソリン代がチャラになるやん」と言っても、ふんと馬鹿にする。「そんな儲けにもならんこと、やらんわ」と。私はたまに100円ライターをしたり、リライト原稿を書いたりして、一種の「日常訓練」をすることがあるのだが、どんな仕事でもなにがしかの利得はあるのにな。
 助手席で彼の運転姿勢を横目にするのだが、膝が抜けて大きな破れがあるチノパンに目が行ってしまう。千本松牧場で彼を正面にしたとき、ホームレスに見えた。働かないまま72歳となり、「儲けにもならん」仕事から逃げ切れたことになる。
 宿に午後4時ちょうどに着いた。途中立ち寄り湯にも行ったのだが、天気のいい日曜午後の共同浴場は観光客がいっぱいで、入り損ねた。
 私が連泊するのは最低ランクと評されるチェーン店系ホテル。かつて一夜だけ泊まって2度と利用するまいと思ったほどだったのだが、あれから10年近く経った。ファミレス程度のバイキングと、この時期はとちおとめ食べ放題。部屋をホテルのHPで予約したので、広いツインルームにしてくれた。
 荷を解いて、すぐに露天風呂へ。『赤いオーロラ〜』も風呂セットの中に入れて大浴場に向かった。露天風呂へ行くと、結構大きいのに誰もいない。脱衣場に戻って文庫を持って露天に浸かった。40分くらい半身浴をしながら読書をしたところで切り上げる。夕食のバイキングは刑務所と同じ厳しさで、午後6時開始、7時10分終了と決められているからである。20分くらい遅れてしまったら、とちおとめ食べ放題が果たせなくなる可能性も考慮しておかねばならぬ。
 スマートウォッチなので、時間は常に正確だ。午後6時ジャストに会場へ行ってみたら、既に数組がテーブルに着いていた。なんだ、ネット情報と違うじゃないか。
 淡々と料理をトレーに入れ、iPhoneで写真を撮る。来月、このチェーン店系ホテルへ一緒に行こうという約束の作家さんに料理メニューの一端を送って参考にしてもらうためだ。
 味は一般的ファミレスと大差なし。最近のファミレスは味がずいぶんと向上したので、こちらのほうがやや不味いかもしれない。とちおとめについては、途中、その大皿が空になっていたのだが、午後6時40分前後、つまり自分の食事が終わった頃にどかーんと補充されたので、それから2回、お替わりに行った。
 〆に珈琲を1杯、カルピスソーダを1杯。7時になる前に会場を出た。お酒を呑まない一人旅の男だと70分なんて要らない。
 ソッコーで風呂へ行く。今度は大浴場でさえひとっこ一人いない。当たり前だ、まだ皆さん、食事中である。
 また、風呂のなかで読書を続けることにする。30分くらい経ったところでようやく人が来たので、さっさと身体と髪を洗って、部屋に戻る。大河ドラマ「鎌倉殿の13人」を観るのが日曜夜のお約束事になった。8時5分前だがテレビをつける。
 生まれて初めて、連続して大河ドラマを観るというくらいの乏しい時代劇経験なので何一つ語るべき言葉はない。こんなに歴史モノって面白いのか。
 かつて「峠の群像」を毎週、見開き2ページで紹介する担当だったのだが、その時はNHKから脚本をもらってきて、ラッシュも見ずにまとめていた。スジと登場人物名を間違わなければいいだけ。純粋な仕事なので、まったく面白さなんてなかった。
「鎌倉殿」を見て、ニュースもちょっと見たところで、身体が少し冷えてきた。
 本日3度目の温泉。露天風呂に15分くらいいたのだが、誰もいなかった。こんなに広々とした露天を一人で独占できるのは贅沢の極みだ。気温は8度くらいか。露天風呂の縁にいろんな岩があって、腰を掛けられるようになっている。半身浴にはちょうどいい気温で、極端に言うと、2時間くらいは読書を続けられる。いや、大浴場はマイ書斎ではない(笑)。
 旅先の夜はいいものだ。解放感がある。狭い部屋なら閉塞感のような縛りがあって、私は好きだ。備え付けの電気ポットには当たり前のことだが80度から90度くらいの湯があって、いつでも飲める。地元産の羊羹がお茶請けに2個用意されていたので、1個の半分と少しの白湯を飮む。
『赤いオーロラ〜』を読んだり、iPhoneでメッセージを書いたりしているうちに、またまた身体が冷えてきたので、大浴場へ。
 こうして一泊目は終わったのだった。
 
(この項続く)
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