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2021年11月07日20:20

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ボイス+パレルモキュレータートーク

豊田市美、埼玉県美を経てようやく巡回してきました。

ボイス+パレルモ
＠国立国際美術館

ヨーゼフ・ボイス(1921-86)はともかく、
弟子のプリンキー・パレルモ(1943-77)の作品は初めまして。
数々いるはずの弟子のなかからどうしてパレルモなのか、興味津々で行きました。

【展覧会構成】
プロローグ
1 ヨーゼフ・ボイス:拡張する彫刻
2 パレルモ:絵画と物体のあわい
3 フェルトと布
4 循環と再生
5 霊媒的:ボイスのアクション
6 再生するイメージ:ボイスのドローイング
7 蝶番的:パレルモの壁画
8 流転するイメージ :パレルモの金属絵画
エピローグ:声と息

キュレータートークを聴きましたので、以下メモ。

主任研究員福元崇志氏

もう展覧会を見てこられたかた、わからなかったでしょう？
1つひとつの作品や章毎に添えられた説明はできるだけ詳しくしているのですが。

ボイスとパレルモ、2人は敢えてわからない、白黒はっきりしない、すっきりとした答えを出さない作品を理論的に作っていました。
今日はそのわからなさを楽しむための解説をしようと思います。

・プリンキーのために(1980)
(いつもの帽子のボイスの隣にマイクを持つパレルモが写ったモノクロ写真)
2人は世代を異にする彫刻家と画家であり、デュッセルドルフ芸術アカデミーの師弟関係にありました。
見た目の印象は隔たっていますが造形理念を共有しています。そのアイデアを浮き彫りにするのが今回の展覧会の目的でもあります。

(1)ヨーゼフ・ボイスの「じゃないほう」

ボイスをご存じない方のために説明しますと、ボイスは現代美術の解説書ではほぼ100%出てくる有名な人物です。10年に1度は展覧会もあります。なぜ有名なのかーそれはその特異な芸術観です。彼は芸術によって世の中を改革しようとしていたのです。
グッゲンハイム美術館の個展図録にコンパクトに纏められています。

"私の作品は刺激剤のようなもの"

すなわち作る=生きるととらえて、我々はどのように自分の世界を形成し方向付けているのか(社会彫塑)。
例えばいま私は頭の中のモヤモヤした考えを言葉にして皆さんに伝えようとしている。これも"芸術"。
"人は誰でも芸術家"という言葉で芸術の枠組みを拡げ共有してより良く生きていくことか目的だというのです。

・民主主義は愉快だ(1973)

ボイスはアクション芸術家のイメージが強いと思いますが、それはさておき今回はもの作りに注目してみましょう。

・ジャッキー帽(1963)
カットされた帽子をひっくり返して脂肪を詰め、一部を掘って2ヶ所に十字架の紙を貼った作品です。
造形作家としてのボイスは脂肪を多用しました。
脂肪には柔らかさと固さが同居し、二極的です。

・ユーラシアの杖(1968)
今回の目玉の１つです。ユーラシア大陸はヨーロッパとアジア、２つの文化圏を繋ぐもの。
・小さな発電所(1984)
この年に来日しました。
こういった複数パーツの立体作品の置き方に正解はありません。
決定的な正解がなく別の可能性がある(仮構的)。

ボイスのキーワードは「二極的/断片的/仮構的」。
今あるもの「じゃない」状態を想像させるのがボイスです。

(2)パレルモの「どっちつかず」

さてパレルモほ1943年生まれ、物心つく前に戦争が終わった世代です。
はじめ彼はシュルレアリスムの画家に師事していました。
その頃の作品が今回１つだけ出ています。
・男と女(1963)

その後ボイスのゼミに入りました。
パレルモは絵画の条件を解体して組み直します。
また、様式の展開が追いにくいボイスと違って
シリーズで時期を区切ることができます。

①オブジェクト(物体)
・無題(1967)

この作品は"ハサミ"というあだ名がついています。
絵画の要素「絵の具」「支持体」「木枠」でできていますが
345.1*41*9.7
という作品サイズからもわかるように、3次元の作品になっています。絵画は2次元ですよね。
通常見えない木枠が前面に出て、わずかに張られたコットンが画面でしょうか。
いえ木枠にも絵の具が塗られているのでそれも画面でしょうか。

②布絵画
・無題(1969)
マーケットで布を買ってきて縫い合わせてもらって(彼は不器用でした)張りました。絵の具を使っていないし絵画らしくありませんね。

③壁画
・グラファイトによる壁画のドキュメンテーション(1971)
パレルモの壁画は一般的な壁画と違います。
例えば部屋の壁の輪郭の10cm内側にぐるっと線を引く。
それだけでその壁はそれまでと違って鑑賞される「作品」に変わります。

④メタルピクチャー
複数点組のアルミによる色面構成です。
作品はどれもとても小さく、よって鑑賞者が近づくことにより目に補色が焼きつきます。そのまま隣の作品に移動すると自分の目の中で色が変化していきます。
メタルピクチャーにおいては物語的なタイトルがつけられているのも特徴です。
しかし各色が何を示すのか理論は確立されておらず解釈には無理があります。
よって即物的か情緒的か「どっちつかず」の状態におかれているのです。

(4)ボイスとパレルモ

本展覧会の『フェルトと布』の章でもわかるように、
ボイスの作品は茶色や灰色、くすんだ中間色でできています。それでありながら反対の美を想像させる。
一方パレルモは特に布絵画で鮮やかな青を使って見せます。
・ボイス:ブライトエレメント(1985)
・パレルモ:無題(布絵画緑/青)(1969)

また『循環と再生』の章と関連して

・ボイス:直感(1968)
蓋のない木箱を作り鉛筆で書き込みがしてあります。
ボイスは「芸術から日常へ」という自らの思想を行き渡らせるために、この箱を12,000個作ったと言われています。

一方パレルモ。
・フリッパー(1970)
一見モンドリアンのようですが、実はこの作品には元ネタがあり、なんとピンボールマシンの側面模様なのです。
日常に埋没している芸術を引っ張りだす、ボイスと逆の「日常から芸術へ」というわけです。

ともに両者は日常と芸術の境界を曖昧にすることを目指していました。

ただし、パレルモはささやかで存在感の少ない人でした。それにもかかわらず
なぜボイスは弟子の中で彼に心を寄せたのでしょう。
「息のよう」、つまり普段は意識されないがひとたび気づくと認識が変わる。
ボイスは1984年のラースロー・グローザーとの対話でパレルモに言及しています。

ボイスは多くを語りましたが文字には残さなかった。
「声」は崩れ流れて消えて行きます。
かたや「息」は見えず無いようで有るもの。

なぜいまボイスとパレルモか。
現代はすぐわかるものが主流です。140字で伝わるとか。
しかしそれがよいのか。
現代に分かりにくさ、冗長さ、煮え切らなさの意味を問う。
それがこの展覧会です。

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ボイスについては近年経歴詐称問題が浮上しています。
だからといってその業績の全てが否定されるものではないでしょう。

1月16日まで。
https://www.nmao.go.jp/events/event/beuys_palermo/

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コレクション展は

1968年展
～新しいパラダイムを求めて～

・高松次郎《波》《波の柱》
・田中信太郎《マイナー・アート A・B・C》
・工藤哲巳《水槽の中のあなたの肖像》他6点

等が出ています。