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2021年08月29日23:01

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本棚412『後世に残したい昭和史の名著と人物』保阪正康(山川出版社)

 本書の前半は、昭和史の名著を、作家·ジャーナリスト、学者、政治家や軍人の手記·回想録、外国人研究者という「書き手」と、通史、権力構造、個別事象の分析、庶民の体験という「テーマ」から紹介する。
 最も読んでみたいと思ったのは、艦内の様々な人間ドラマを描き、「昭和の平家物語」とも呼ばれた吉田満の『戦艦大和ノ最期』。「戦争という巨大なマシンの中で人間の知性がそれにどう立ち向かったかを冷静に描いている」という評に、批判や断罪でもなく、美化や弁解でもない、人間性の深い地点まで到達した戦記文学の力強さを感じた。
 他方で、近衛文麿の回想録は、軍に邪魔をされたという弁明に終始しており、日本の進路を決める重大な意思決定をした首相としての主体性が感じられないとする手厳しい評価が印象的だった。 

 本書の後半は、昭和史の人物を取り上げる。政治家や軍人、学者、実業家、文化人など広範にわたっており、各人見開き一頁程の分量ではあるが、文章の密度は濃い。
 俳優渥美清の文章では、寅さんの明るい演技の背後に、若い頃の貧困や闘病の経験による孤独な心情があったことや、山田洋次監督による「聡明さと優れた判断力、そしてあの品格」は日本の俳優では傑出していたという人物評が引かれ、渥美清という人物を重層的に浮かび上がらせている。
 『二十四の瞳』など胸を打つ多くの作品を作り続けてきた映画監督木下恵介。「人間の心情には濁りのない清新さや平和を求める優しさがあるが、木下はそのことを常に忘れてはならないと訴えた。」という文章は、木下作品の全てに通底している切なる願いのように思えた。
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