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2021年08月17日18:24

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本棚408『県民性 文化人類学的考察』祖父江孝男(中公新書)

 文化人類学を専門とする著者が、日本人の国民性における地域差、いわゆる「県民性」を明らかにする。50年前の著作なので、都市と農村の暮らしのギャップの大きさや調査方法の洗練度合いなど時代を感じさせる部分もあるが、逆に半世紀を経ても変わらない確固とした県民性の存在に驚かされる。

 井伏鱒二の『駅前旅館』や太宰治の『津軽』といった文学作品から見える県民性に触れるなど取っつきやすさに配慮する一方、気候や風土、歴史、社会構造など県民性を形づくる種々の要素の分析は、様々な文献を引用し学術性も高い。気候について、雪国の東北の人は内向的といったことは今でも一般的に言われがちだが、気候がより厳しい北海道や北米の反例を挙げつつ斥けるなど目から鱗の話が多い。

 やはり面白いのは、47都道府県すべての県民性について触れた後半部分。北海道の進取性、群馬のカカア天下、北陸の忍耐強さ、長野の理論好き、大阪の功利性、高知のいごっそうに熊本のもっこすなどなど、県民性の実態や背景を丁寧に解き明かしてゆく。何頁にもわたり分析がなされる県もあれば、「さて神奈川の県民性となると、これまた特徴がなくて把えにくい。」と数行で終わる県もあったりもして笑ってしまった。

 また著者は、個人差を忘れないようにと強く説く。ある地域の特色として一般化することは、時にステレオタイプ的な見方に陥るおそれがある。マイナスの断定は、ユダヤ人を「ケチでずるい」とするような人種偏見と同様に、自分と「あいつ」との峻別に繋がり、適切な他者理解の妨げとなることに常に留意する必要があるだろう。
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