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2021年08月08日14:02

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本棚404『東北·蝦夷の魂』高橋克彦(現代書館)

 阿弖流為、前九年·後三年合戦、平泉滅亡、奥州仕置、戊辰戦争ー。東北の地は、金や馬といった資源を狙う中央政権から五度攻められ、全て敗れている。勝者により書かれた歴史では、自身の平穏なくらしを守り抜くために応じた戦いであっても、中央に抗う「まつろわぬ民」とされ、嘲りの対象となる。
 
 『火怨』『炎立つ』『天を衝く』など、これまで著者は、中央の理不尽な権力に対して立ち上がり、無念の中で命を落としていった東北の武人たちを描いてきた。十万の秀吉軍にわずか五千の兵で奮戦した九戸政実、源頼義の横暴に反旗を翻し蝦夷とともに戦った藤原経清。歴史の流れの中に埋もれてしまった彼らの真の想いを、声を著書は導き出す。

 人は数多の苦難や不幸に遭った時、二つの道に分かれるだろう。すべてを諦め運命を呪い自暴自棄になる者。自分が苦境になりながら他者を案じる優しさ、ともに手を携えるあたたかな心を持つ者。東北の人びとは常に後者であり続けてきた。自らの命を賭しても陸奥の安寧を願った阿弖流為以来の信念と矜持が人びとの心を支え続けてきたのであろう。

「「俺の言葉が聞こえるか!」阿弖流為は最後の力を振り絞って、恐らくは処刑を見届けているだろう民らに叫んだ。 「俺たちはなにも望んでおらぬ。ただそなたらと同じ心を持つ者だと示したかっただけだ。蝦夷は獣にあらず。鬼でもない。子や親を愛し、花や風に喜ぶ···」 いくらも言いたいことはあった。だが、それ以上声が出てこない。阿弖流為ははじめて悔し涙を流した。」
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