本書は2つの心揺さぶる講演からなる。
一つ目の「後世への最大遺物」は、人間が後世に遺すことのできるものを列挙する。金、事業、思想、文学、教育ーたとえこれらを遺せなくても、人は「勇ましい高尚なる生涯」を遺せると内村は言う。失望の世の中にあらずして、希望の世の中であることを信じ、それを生涯に実行して、その生涯を世の中への贈物としてこの世を去るということ。背後にあるキリスト教的思想は十分に理解できない部分はあるが、その心の底からの熱い言葉は数多の人に勇気と希望を与える。
内村自身も最初の結婚の破局や妻や娘との死別、宣教師との対立や学校の辞職など多くの失敗を重ねてきたが、だからこそ、同じく失意にある人びとを支える言葉を生み出せるのだろう。
さらに、今から100年以上も昔の日清戦争の頃に、「私がこの地球を愛した証拠を置いて逝きたい。」といった遠大な遥かな視点を有する日本人がいたことに驚く。
もう一つの講演「デンマルク国の話」は、ドイツとオーストリアとの戦いに敗れ、最良の地を割譲し、荒野だけが残されたデンマークが再起し、小さいが豊かな国となった要因を解き明かす。戦いに敗れても必ずしも不幸ではないと内村は言い、それは第一の講演とも相通じるものがある。
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