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2021年07月18日23:55

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本棚399『万葉集を歩く』安藤典子編(JTBキャンブックス)

 万葉集の縁の地の美しい写真が織り交ぜられ、いにしえの人びとの息吹を感じられる。「采女の袖吹きかへす明日香風 京を遠みいたずらに吹く」の歌は、藤原京への遷都で寂れた廃都に流れる風を描くが、色鮮やかな服の袖が風に翻るイメージとともに、時が過ぎることの悲しみという現代の我々にも通じる感慨を伝える。

 万葉集の中の「ひと」に注目した特集も印象に残った。政争に巻き込まれ、謀反の疑いをかけられ、若くして非業の死を遂げた有間皇子。熊野古道の皇子の墓の隣にひっそりと佇む、「家にあれば笥に盛る飯を草まくら 旅にしあれば椎の葉に盛る」の歌碑が物悲しい。
 万葉集の編纂に大きく関わったとされる大伴家持も、藤原氏に圧され、政治的には恵まれなかったことがわかる。歌は順風満帆の時よりも、何をやってもうまく行かないような時に、人の支えとなるのだろう。因幡の地で新年に詠まれた、「降り積もる雪のように、よいことが重なるように」との意の家持の歌で万葉集は締めくくられるが、それから二十六年後に亡くなるまで、家持の歌は一首も残っていないという。その後、多くの「よいこと」がもたされたのであってほしい。
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