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2020年08月17日05:01

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つまらない“楽屋落ち”が、映画そのものをぶち壊している。オリビエ・アサイヤス監督「冬時間のパリ」(2018)。

毎度原題の話ですみませんが、この映画のフランス題名は「Doubles vies」で“二重生活”という感じかな。アメリカ題名が「ノン・フィクション」というので、勘弁しろよと思いました。なぜかと言うと、ジュリエット・ビノシュがセレナという役を演じているのですが、彼女がいる場面で“朗読はジュリエット・ビノシュに頼もう”とやってのけたわけです。

僕は、こういう安っぽいギャグが嫌いです。スティーブン・ソダーバーグという監督が、ジュリア・ロバーツを劇中人物に起用しながら、そのロバーツに女優ジュリア・ロバーツを演じたさせたときも、卓袱台をひっくり返しました。←しかし彼が「エリン・ブロコビッチ」で、エリン・ブロコビッチ本人をウエイトレス役で登場させ、名札に“ジュリア”と書いたときは大いに喜んだのでした。

この「冬時間のパリ」は、デジタル化に脅かされている出版界の人々の男女関係を描きます。けっこう狭い仲間内に見えるのに、それぞれが男女関係にあるというのは、うまく描くと面白そうなのに、いまいちのらない展開でした。そして先述の楽屋落ちをかますもので、僕にしてみれば“あほんだら!”と叫びたくなるわけです。

そもそも僕は「冬時間のパリ」という言葉に、勝手な印象を持っていました。「かくも長き不在」のラストでアリダ・ヴァリがもらす、“夏だったからダメだったんだわ。これが冬だったら”という、その“冬時間”だと勝手に想像したわけです。そしたらなんのことはない、アサイヤスの「夏時間の庭」という、真実味のないセリフが羅列された家族劇の日本題名の単なる“再使用”でした。

オリビエ・アサイヤスという監督には「カルロス」という5時間半のトンデモ映画があり、これが結構面白かったことから注目していました。「ストーリー・オブ・フィルム」というイギリス製作の“映画史”ドキュメンタリーの終盤で、彼の「イルマ・ヴェップ」を取り上げていたから、VHSを引っ張り出して見ました。そして「アクトレス 〜女たちの舞台〜」では、“マローヤのヘビ”というアルプス山中に流れる雲が巨大なヘビに見える映像に驚嘆しました。

だからこそ僕は、彼をフランソワ・オゾンと同格の“注目すべきフランス映画監督”に感じていたのですが、エリック・ロメールを気取ってこんな会話劇を作るなんて、「夏時間の庭」の大失敗を何も反省していない厚顔無恥さにアタマに来たわけです。←単に、「夏時間の庭」を忘れていた自分に腹が立っただけかも。

ということで、たったひとつの出来そこないのギャグが映画本体をぶち壊してしまいました。いや、そうではなくて、そもそもデジタル化に揺れる出版界の内幕と言いながら、デジタル化危機の本体・本質を描くことなく、だから出版社の買収劇も何事もなかった格好で終わる内容のない映画だから、出来そこないのギャグが浮いてしまっただけなのです。

むしろ「カルロス」のように、世界的なテロリストが太ってしまい“脂肪吸引手術”を希望しているというような、呆れてしまう展開を持ちこんでくれた方が楽しめたと思う。カトリーヌ・ドヌーヴに朗読させたとか固有名詞を出しておいて、目の前にいるビノシュの名前を他人のように使うなんて、大島渚の「帰って来たヨッパライ」における同じシーンの二度使用よりもえげつない愚策だと僕は感じます。
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